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はじめに
 ホウレンソウは栽培から出荷に至るまでの全作業のうち、収穫後に商品に仕上げるまでの調製作業に費やす時間がもっとも長く、この省力化が大きな課題となってきました。調製作業とは、収穫後の下葉落としから、計量、結束または袋詰め、水洗(束の場合)、保冷庫への収納または出荷用の車両に積み込むまでの作業を指しますが、主なホウレンソウ産地の試算によれば、この調製作業に要する時間は全作業時間の55〜86%を占めています。
 生産現場では実際に1日当たりの調製量(出荷可能な量)が作付面積を規定しており、全国的にホウレンソウの出荷量・作付面積がともに減少傾向にあるなかで、調製作業に費やす時間は生産拡大のボトルネックとなっています。
 ホウレンソウは全国すべての都道府県で栽培・出荷されている野菜ですが、それぞれの地域や畑の立地、気候、土壌に適した栽培・収穫方法により、また地域の伝統や文化の影響をも受けながら高品質のホウレンソウ生産をめざして取り組まれています。栽培方法には露地栽培やハウス栽培、さらに露地栽培にはマルチ、トンネル、無資材による栽培など、またハウス栽培には夏場の雨よけ栽培や秋〜春の保温ハウス栽培などがありますが、この栽培方法も、出荷時の荷姿、機械化の有無、作業者の経験や年齢などと共に調製時間に影響を及ぼす要因の一つとなっています。
 調製作業のうち下葉落としはどの産地でも必須の作業ですが、作業場で手作業により1株ずつ下葉を落とす一般的な方法のほか、マルチ栽培の産地などのようにマルチの穴単位で4、5株ずつ手にとって処理したり、また畑で収穫と同時に下葉を落とし、さらには結束まで畑で処理してしまう産地もあります。
 また商品の荷姿としては、伝統的な平束が見た目に美しく鮮度がアピールできると評価されている一方で、近年では夏どりホウレンソウのみならず、季節を問わず流通過程で扱いやすく結束技術を必要としないFGが一般的になりつつあります。
 「FG(エフジー)」とは、本来は東洋紡の防曇性フィルムの商標「F&G」(「fresh & green」の略)のことでしたが、現在では防曇性フィルム一般の呼称となっています。防曇性フィルムはフィルム表面に水滴が発生しにくく、袋にした場合、内面に均一な水膜を形成することにより底に水滴が溜まることがなく、したがって腐敗菌が増殖しにくいのが大きな特徴です。そのため野菜など食品の包装袋として広く使われ、このFG袋も略して「FG」と呼ばれています。
 近年では生産拡大のために作業を省力化したり高齢者の作業を軽減するために機械化が進み、収穫後のホウレンソウの根を切り下葉を除去し土汚れを落とす調製機や計量後のホウレンソウをFGに詰める袋詰め機(包装機)が普及ししつつあります(袋詰め機で使用するフィルムはラミネートフィルムなど本来のFG以外の材質のものも使用されていますが、このようなフィルムの袋も一般には束に対する袋の意味で「FG」と呼ばれています)。
 また畑の規模が格段に大きな産地では大型の出荷用トラックのほか発電機と袋詰め機を搭載したトラックを畑の脇に置いて、下葉を落としながら収穫したホウレンソウをその場で袋詰め、箱詰めして出荷し、通常の調製作業を見慣れた人々に衝撃を与えています。
 調製方法はこのように多様ですが、ここではこれまで取材した全国の生産現場で採用している調製方法の中から特徴的な事例を取り上げ、現状を再取材しました。1日の調製作業に要する時間、仕上げた束または袋の数や詰めた箱の数などの調製量、そのために必要な収穫面積などは季節や気象などにより変動がありますが、長期にわたる経験により均されて、実際に作付計画を立てる際の基準となっている数字を生産者から直接いただいたものです。
 生産拡大や作業の軽減を図るために調製方法の改善をお考えの生産者の皆様が、経営規模や現行の栽培方法、採用している荷姿に適した調製方法の改善を検討し工夫する際の参考にしていただけましたら幸いです。
 なお、一般にホウレンソウの調製・出荷は次の3方式により行われています。
 1.個人で調製し、共同で出荷する方式(個選共販)
 2.共同で調製し、共同で出荷する方式(共選共販)
 3.個人で調製し、個人で出荷する方式(個選個販)
事例の掲載に当たりましては、事例をまず露地栽培とハウス栽培に分け、さらにこの出荷方式によりそれぞれを、「JA共販農家の事例」と「その他の共販農家と個販農家の事例」に分けて、4つのグループにまとめました。
 また、各事例の記載内容のうち、事例農家の所属する地域の主な農産物は、耕種作物の中から特に注記のない限り販売金額をベースに選んでいます。そして気象グラフは、気象庁の観測地点のうち事例農家の最寄りの観測地点のデータをグラフにしたものです。
 各グループ内での事例の掲載順序は、事例農家の所属市町村名のアイウエオ順です。
 
謝辞
 ホウレンソウの生産農家は地域の共選場が利用できる場合を除き、家族経営はもちろんのこと、常勤の従業員やパートタイマーを雇用している農家や法人でも、代表者は日々従業員とともに調製作業に従事するか、生産業務に追われています。
 取材先の生産者の皆様には、そのお忙しい中を貴重なお時間を割いて取材にご協力いただきましたことに、心から感謝申し上げます。
 また、共販事例の場合は、事例農家の農業環境の情報をご提供いただいたり、共選にかかわる取材でお骨折りいただくなど、JAの皆様にもご多忙の中を快くご協力いただきました。厚くお礼申し上げます。
 最後に、この事例集は、このほか多くの皆様にアドバイスをいただいたりデータをご提供いただくなどのご協力なくしては、ここまで纏めることができかったことを、感謝の意ともに申し添えたいと思います。
 
主な参考資料・WEB
・千葉県・千葉県農林水産技術会議「野菜経営収支試算表」平成22年3月
・群馬県農政部「まるごと『ぐんまのホウレンソウ』ブック」平成24年3月
http://to-noken.ac.affrc.go.jp/DB/DATA/054/054-201.pdf#search='岩手県県北農業研究所%20ホウレンソウ調製機'
http://www.pref.iwate.jp/~hp2088/repo/pdf/repo_203.pdf#search='岩手県県北農業研究所%20ホウレンソウ調製機'
ホウレンソウ調製機
・三井和子、日本ホウレンソウ紀行、月刊誌「農耕と園芸」(2004年1月号〜2006年12月号)誠文堂新光社
・三井和子(2006年)「ホウレンソウをつくる人々」誠文堂新光社
 
リンク
ホウレンソウの生産現場から 〜持続可能な農業の時代のアメリカ野菜農場〜