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ハウス栽培の調製作業

個販農園と直販農園の事例

 ここでは個人で卸売市場へ出荷する個販の農園と、直接小売店へ出荷したり直売所で消費者に直売する農園の事例をご紹介します。
 事例にはホウレンソウを主力商品とする農園のほか、主に直売用に多品種少量生産している農園や、経営の柱である青ネギの連作障害を防ぐためにホウレンソウを輪作体系に組み入れている農園もあります。
 一般に、ホウレンソウを周年出荷する農園のハウス栽培上の克服すべき重要な課題には、フザリウム菌などの土壌病原菌による病害やケナガコナダニの食害がありますが、これらはともに経営に大きな損失をもたらします。
 事例には、ハウス土壌を一時的に湛水することにより病原菌の土壌中密度を病害の発生しない程度にまで下げるとともに、EC値も下げて塩類集積を防ぐことにより年4作の連作を実現している有機栽培農園があり、ここでは完熟堆肥を利用しているためケナガコナダニの発生もみられません。また、すでに対策が功を奏し、フザリウム菌は6、7月の土壌消毒により、また春秋のダニの発生は完熟した落葉堆肥を使用することで深刻な被害を乗り越えた農園がある一方で、現在、ケナガコナダニ対策を模索中の事例もあります。このような状況下で先月(2013年2月)、ケナガコナダニ防除に有効な農薬がホウレンソウにも拡大適用されたという朗報がありました。
 調製作業の面では機械化が普及しつつある昨今ですが、機械処理との相性のよいしっかりした株のホウレンソウを栽培し、市販の調製機や手詰め包装機の導入により小規模ながら夫妻だけで効率よく作業を処理しているケースのほか、キャタピラに作業台を載せた装置を独自に開発してハウス内調製ラインで短時間の集中した作業により顕著な省力化を実現している大規模農園の事例もあります。
 その一方で、機械化の情報に心が揺れながらも、セールスポイントの手詰めの美しさを堅持して、ホテルや料亭など顧客の満足を得ている事例のほか、独自に栽培や土汚れ除去の方法を工夫し、地場産業で育まれた手詰めの熟練作業者に外注して、効率よくFGに仕上げている事例もあります。
 ハウス栽培の個販農園には、このほか今回はご紹介できませんでしたが、農園の調製作業場を提供し作業者個々人のペースでFGに仕上げてもらい、出来高給で支払うという賃金形態を採っているケースもあります。

目  次
事例1 有用微生物活性化農園 コンプレッサーで汚れ除去 FG仕上げ (奈良県葛城市) 
事例2 ダニ克服農園 周年1袋3、4株 FG仕上げ        (広島県北広島町)
事例3 手詰めの美 市場出荷皆勤農園 FG仕上げ          (埼玉県越谷市)
事例4 青ネギ農園 ハウス内に調製ライン FG仕上げ        (広島県広島市)
用語の解説
 
 
 
 
 
 


 
1.地域の概要

 
奈良盆地には川上村(三重県との県境にあり雨量の多い大台ケ原に隣接)を源流とする吉野川(紀ノ川)の水を農業用水として分水し供給する水路が縦横に敷設されている。山麓など標高の高いところでは地下にパイプラインを通し、農家は最寄りの取水口から圃場までホースを利用して送水することができる。溜池を経由して水田などに給水しているところもある。
 

 

 

 
2.事例農園の生産概要と調製量


 

 
「土壌に生息する微生物には主にカビ(糸状菌)、細菌(バクテリア)、放線菌(糸状菌と細菌の中間的特性)がいますが、この比率が1:4:5であれば作物を連作しても障害は起こりません。畑土壌の糸状菌の多くはピシウム、リゾクトニア、フザリウムのような悪玉菌(病原微生物)で、善玉菌(有用微生物)は20%しかいないのです」。事例農園では完熟堆肥(もみ殻35%、牛ふん60%、米ぬかと微生物土壌改良材オーレスG5%)5d/10eとオーレスG10s/10eで微生物に棲家と餌を与え、カキ殻石灰で細菌の棲みやすい中性〜微アルカリ性の環境をつくる。1か月間湛水して光合成細菌を増殖させると、水を抜いた通気性のよい畑土壌では生息できない種類の光合成細菌が放線菌のエサとなって放線菌/糸状菌の比を増大させて連作障害の発生しにくい土をつくる。また、酸素があると光合成を止めて呼吸によって有機物からエネルギーを獲得する種類の光合成細菌は、根圏で植物根の分泌物をもらう代わりにアミノ酸、核酸、有機酸やカロテン系色素を根に供給し、トマトなどの作物にビタミンB1やCを増加させ、日照時間にかかわらず果実の色付けを良くし、そのうえ貯蔵性も向上させるなどの効果をもたらしている。
 
3.調製作業の流れ






 
 
 


 
1.地域の概要

 
中国山地に位置する広島県北西部では、昔から重労働の田植の作業能率を上げるために、歌や伴奏に合わせて苗を植え付ける「囃し田(はやしだ)」と呼ばれる田植が行われてきた。地域の田植の最後には一番大きな水田で、にぎやかに囃しながら華やかに「花田植(はなだうえ)」をして、その年の田植を終えた。川東地区と壬生(みぶ)地区の川東・壬生両田楽団による「壬生の花田植」は1976年に国の重要無形民俗文化財の指定を受け、2011年にはユネスコの無形文化遺産に登録された。
 

 

 
2.事例農園の生産概要と調製量

 
施肥量、農薬使用回数とも従来の半分に抑えた特別栽培の方式で不耕起栽培。エーザイ生科研(株)の土壌分析を年2回実施。当地は土壌のリン酸含有量が多いため、NKロング180日タイプを半年(3作分で10e当たり窒素・カリ各10s)ごとに年2回、微量元素とともに施用。1作10e当たり窒素、カリともに約3kgになるが、根を張り巡らすことで、じっくり吸収して肉厚葉に。省力化は栽培工程だけでなく、収穫したホウレンソウのしっかりした株が調製作業の省力化に寄与し、さらに作業工程の流れもスムーズで、通常、調製作業は午前中で終了。
 


 

 
ケナガコナダニの対策には5年間苦慮し、最悪時には年間生産量が半減。従来、秋に散布してきた外材のバーク堆肥に未熟部分があったようで、県の農業技術センターの指導により自家製の完熟落葉堆肥を6月の土壌消毒の前に散布。また、連作障害回避のために大葉シュンギクを作付体系に組み入れているが、シュンギクにはケナガコナダニも忌避して発生しない。
 
3.調製作業の流れ















 
 
 


 
1.地域の概要

 
平坦な農地と水資源に恵まれた越谷市では作付面積の82%を水稲が占め、野菜は15%。水田では毎年「田んぼアート」の取り組みが行われ、市民が参加して田植えを行い、赤米、黒米など古代米の稲が持つ独特の色を利用して水田に絵を描いている。
 

 

 
2.事例農園の生産概要と調製量

 
どのハウスも堆肥投入時と土壌消毒時以外は不耕起で年7作栽培。年間のホウレンソウ作付け面積は70eに7作で約5f。「市場の営業日は毎日出荷」の原則を守っているので、周年、生育ステージの異なったホウレンソウが生育中。
 

 

 
堆肥材料は粉砕もみ殻、菌床シイタケ残渣、飼料残渣(窒素源)で、それぞれ2dトラック10台分・20dずつを切り返しながら、1年半〜2年積んで完熟させる。
 
3.調製作業の流れ










 
 
 


 
1.地域の概要

 

 

 
2.事例農園の生産概要と調製量

 


 

 
3.調製作業の流れ







 
 
 

用語の解説

アール メートル法の面積の単位(記号a)。フランス語areの音訳。
1e=100u=約30坪
10e=1000u=約1反(1反=300坪=約991.7u)
相対取引 あいたいとりひき。多数の買い手が競い合って公開で買値を決めるセリとは異なり、1人の売り手と1人の買い手が話し合いにより販売物の数量や価格などを決めて売買すること。具体的には、卸売業者が卸売場で生鮮食料品などの卸売をするとき、販売価格や数量について仲卸業者または売買参加者と交渉して販売する方法をいう。
EC イーシー。Electric Conductivity(電気伝導度)の略で、土壌水に溶けている窒素、リン酸、カリなど肥料イオンの総量を示し、通常、mS/cm(ミリジーメンス・パーセンチメートル)と表示する。一般に硝酸態窒素量との相関が高い。EC値が高い(塩類集積)と作物の生育が抑制されるため、土壌診断により適正な施肥量が求められている。除塩の方法にはトウモロコシなどのクリーニングクロップなど比較的耐塩性の高い作物を作付けるほか、深耕や天地返し、潅水や湛水などがある。
言い値 いいね。売り手の言うとおりの値段。
入り目 いりめ。束やFG入りホウレンソウが消費者の手元に届くまでに水分の蒸発などにより減量することを見込んで、通常は規格の重量に5〜10%ほど増量すること。
エコファーマー 平成11年7月に制定された「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」第4条に基づいて、「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」(具体的には堆肥や緑肥などにより土づくりをし、化学肥料や化学農薬の使用量を減らす生産方式の導入計画)を都道府県知事に提出し、その導入計画が適当であると認定を受けた農業者(認定農業者)の愛称名。エコファーマーになると、認定を受けた導入計画に即して、金融・税制上の特例措置が受けられる。
園芸作物 えんげいさくもつ。野菜、果樹、花卉(かき・観賞用植物)。
共選 一般に、生産者が生産した果物や野菜をJAなどの共選場(共同選果場)に持ち込んで、一定の規格・等級の基準に基づいて選別・選果または検査・格付けをおこなうこと。ホウレンソウの場合は共選場(共同調製作業場)で調製すること。調製(共選)後は共販出荷するので、通常は野菜集出荷場に調製設備を整備している。
共販 生産者が青果物をJAや出荷組合を通じて卸売市場へ出荷する出荷方式のこと。JA共販は系統出荷とも呼ばれる。(JAや出荷組合が卸売市場を通さず直接小売店へ卸す場合は「直販」)
減反 げんたん。1970年頃から実施された減反政策のこと。日本では1964年をピークにして、米の1人当たり年間消費量が減少する一方で、農業技術の向上により生産量が高水準で推移し、食糧管理制度(主食である米や麦などの価格や供給などを政府が管理する制度)のもとで政府の在庫米が度々急増したため、その対策として米の作付制限と他の作物への転作により米の生産調整(減反)を行った。それから34年後の2004年には水陸稲の作付け面積は292万7000f(1970年)から170万1000fと42%減少。同年、需要に応じた稲作農業者の主体的な判断を基本とする米生産の調整の仕組みが採り入れられたが、以降も需要量は減少し続けており、その後、政策面では、加工用米、米粉用米、飼料用米などの新規需要米制度や、最近では農業者戸別所得補償制度(2013年度は経営所得安定対策)による支援なども行いながら、米の需給を調整するための取り組みがなされている。
光合成細菌 こうごうせいさいきん。太陽エネルギーを利用して嫌気的条件(無酸素状態)で光合成を行い、さらに空気中の窒素ガスを吸収利用して菌体のタンパク質を合成することもできる細菌。水田などの湛水状態の土や湿地土壌など酸素がなく有機物の多いところに数多く生息し、水田の秋落ち現象やレンコン栽培地の根腐れを防止し、生糞や魚かすなどの分解時に生じる有毒成分ピユトレシンなどを消化除去する。また悪臭の除去や汚水の浄化などにも利用されている。好気的な畑に微生物肥料(光合成菌体とその分泌物)として施用すると、放線菌などのエサとなり放線菌/糸状菌の比率を増大させフザリウム菌などによる土壌病害を防ぐほか、作物の根に分泌物を供給してビタミンB・Cの増加、色づけ、貯蔵性など作物の品質を顕著に向上させる。中性〜微アルカリ性を好み、0℃〜約90℃の水温で生息できる。
耕種作物 こうしゅさくもつ。田畑を耕して栽培する作物で、水稲、陸稲、麦類、雑穀、豆類、いも類、野菜、果樹、工芸農作物、飼肥料作物、花卉(鑑賞のために栽培する植物で、花物、葉物、実物などがある)、薬用作物、採種用作物、桑など。
個選 共選に対して、生産者が個人でホウレンソウを調製することをいう。
個販 調製したホウレンソウを個人で卸売市場へ出荷する出荷方式。
糸状菌 しじょうきん。一般にカビと呼ばれる好気性の従属栄養(有機物を炭素源として生育する)微生物で、大部分は糸状の菌糸からなり、そのほとんどは土壌中に生息し、キノコや酵母もこれに属す。一部に作物の土壌病害を引き起こすピシウム菌、リゾクトニア菌、フザリウム菌のような病原糸状菌がいる。細菌や放線菌と異なり弱酸性の環境を好み、通気性のよい畑土壌などで旺盛に増殖するが、湛水した水田の嫌気的土壌では生育が難しい。
田畑輪換 たはたりんかん。水田を1年以上の間隔で水田、畑として交互に利用すること。水稲は増収し、畑作物は連作障害を回避できる。
反収 たんしゅう。10e(1000u)当たりの収量(収穫の分量)。
たとえば平成23年度のホウレンソウの全国統計で、作付面積21,800f、収穫量263,500d、10e当たり収量(反収)1,210s。
手枡 てます。経験的に手が覚えた重量感覚でホウレンソウを計量すること。ときどき秤で重量をチェックして規格重量を確認する場合もある。秤による計量作業を省くことにより調製時間を短縮できる。
点播 てんぱ。一定の間隔をおいて1〜数粒の種子を播くこと。たとえば、株間15cmで5粒の種子を点播することは、株間3cmで1粒ずつ播種する場合と土壌環境はほぼ同じと考えられている。
特別栽培農産物 とくべつさいばいのうさんぶつ。土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培方法を採用して生産することを原則とし、
(1)節減対象として定められた農薬の使用回数が従来の使用回数の50%以下
(2)化学肥料の窒素成分量が従来の使用量の50%以下
で栽培された農産物。
仲買 なかがい。卸売市場の仲卸業者のこと。市場開設者の許可を得て卸売市場内に店舗を持つ。生産者が卸売市場に搬入して卸売業者に販売委託した青果物を、卸売業者からセリや相対取引で購入しスーパーや小売店などに販売する中間業者。
被覆肥料 ひふくひりょう。肥効調節型の肥料。肥料粒子にポリエチレン樹脂などでコーティング(被覆)して肥料成分が徐々に溶出するよう調整したもの。たとえば「NKロング180」は、窒素(N)とカリ(K)が気温25℃の一定条件のもとで肥料成分が溶出しつづけ、180日で肥料成分の80%が溶出するよう設定されている。実際には気温などの条件により溶出する量は変化する。ホウレンソウは生育特性として生育前半は窒素の吸収が緩やかで生育が遅く、後半になって急激に吸収量が増えて生長するため、このような緩効性の肥料が適している。
ヘクタール メートル法の面積の単位(記号ha)。フランス語hectareの英語読み。
1f=100e=10000u=約1町(1町=10反=3000坪=約9917u)
放線菌 ほうせんきん。糸状菌のように菌糸を伸ばすが、菌糸の微細構造は細菌と同じという従属栄養微生物。多くは糸状菌のように好気性だが、細菌のように中性〜微アルカリ性を好む。そのほとんどが土壌に生息し、加水分解酵素を分泌して土壌中のタンパク質、セルロース、リグニン、キチンなどを分解、利用する。キチン分解菌はフザリウム菌など糸状菌の細胞壁(キチン質)を分解して溶菌し、土壌病害の発生を抑える。土壌中で最も多いストレプトマイセス属ではジャガイモそうか病菌が知られているが、各種の抗生物質を生産するものも多い。土壌特有の臭いは放線菌の生成物によるといわれている。
有機栽培 ゆうきさいばい。化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと等を基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法。(環境負荷:環境に加えられる影響であって、環境保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。農業分野においては、化学肥料・農薬の過剰投入や家畜排泄物の不適切な管理等が環境負荷の原因となる。)
有機JAS認証制度 ゆうきジャスにんしょうせいど。有機食品の検査認証制度のこと。農林水産大臣に登録した第三者機関(登録認定機関)が、有機農産物等の生産行程管理者(農家や農業生産法人等)や製造業者を認定し、認定を受けた事業者が生産または製造・加工した有機食品について、有機JAS規格に適合しているかどうかを検査し、その結果、適合していると判断されたものに有機JASマークを付し、「有機」の表示ができる制度。
ユネスコ UNESCO(国際連合教育科学文化機関、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)は、諸国民の教育、科学、文化の協力と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目的とした国際連合の専門機関。1946年の創設以来パリに本部を置き、日本は1951年に加盟。
予約相対取引 よやくあいたいとりひき。相対取引には、市場に入荷した現物を見て価格を決める方法の他、卸売業者が買い手(仲卸業者など)から予約注文を受け、産地(または生産者)に発注して出荷してもらい買い手に卸売りする方法があり、これを「予約相対取引」と呼ぶ。
6次産業化 ろくじさんぎょうか。1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組。この取組を進めていくため平成22(2010)年11月、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化法)が成立した。「6次産業」の6は「1次産業・2次産業・3次産業」の数字を加えたもの。
6次産業化先進事例集【100事例】(平成23年4月)