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おわりに                                2017年11月更新
 2001年8月、稲作地帯の夏どりホウレンソウ産地・岩手県西根町(現在の八幡平市)の調製作業現場を訪ねた折に、細身のホウレンソウの下葉を1株ずつ丁寧に落としている作業に衝撃をうけたことが契機となって、多様な生産現場の取材を始めて13年になります。
 これまで国内では50数カ所を取材し、今回この中から主に家庭で消費する加熱調理用ホウレンソウの調製作業事例16件をご紹介しましたが、事例集を終えるに当たり、他のレポートにも改めて目を通しました。
 取材した生産者の皆様がホウレンソウの生産をはじめた時期はそれぞれで、すでに養蚕の盛んだった戦前から桑の木の間で栽培していた地域が戦後になって大産地を築いた例もありますが、戦後の高度経済成長期以降に取り組みはじめた事例が多く、特に減反(米の作付面積を減らす生産調整策。1971年度から本格導入、2018年廃止)を契機に本格的にホウレンソウの生産に踏み切ったケースが目立ちます。
 

 
 戦後の復興期に道路事情が改善されると、すでに51年には青果物の鉄道輸送が産地から市場へ直行できるトラック輸送に代わりはじめました。そして高度経済成長期に入り高速道路が建設されると新しい野菜産地が増えて、果菜や根菜は遠方の都市の市場に鮮度のよいまま、しかも季節に先駆けて出荷されるようになったのです。
 その結果、地元産は競争力を失ない生産者の方々は新たな作目を模索することになりましたが、当時まだ葉物の鮮度を保持して長距離輸送する技術が普及していなかったため地産地消が一般的だったホウレンソウを転作作物に選ぶ生産者も少なくはありませんでした。
 また時を同じくして、鮮度を落とさずに都会の卸売市場に出荷できる都市近郊でもホウレンソウへの転作が盛んになりました。
 さらに、減反によって転作を余儀なくされた多くの稲作農家の方々が、次々と転作田で夏どりホウレンソウの生産に踏み切って産地を築き、中にはコールドチェーン(低温流通体系)の発達とともに遠方から人口の多い首都圏などの市場へ大量出荷するホウレンソウ産地も現れました。
 

 
 生産者の皆様が数ある野菜の中からホウレンソウを転作作物として選んだ理由はさまざまですが、小型で軽く、経営規模にかかわらず高齢者でも露地・ハウスを問わず比較的容易に年に数作栽培できる野菜であることに加え、何よりも年々急上昇しつづける価格に魅力があったことは否めません。
 このような生産現場の取材を始めたのは経済が平成の停滞期に入ってからのことです。価格が上昇しつづけ毎日が活気に満ちていた頃のことを、目を輝かして語る生産者の方々のお話を伺い、皆様それぞれが戦後経済の大きな流れのなかでホウレンソウの生産に取り組んでこられたことに気づきました。そして取材を重ねるうちに、当時のホウレンソウの価格上昇が指定野菜のなかでも群を抜いていたことを知り、「なぜホウレンソウが?」という疑問を今日まで抱えてきており、これを機に原因を探ることにいたしました。
 

 
 野菜の卸売価格は市場入荷量(取扱量)に敏感に反応し、入荷量が増えると下がり、干ばつ・大雨・冷害・台風などの被害に見舞われて入荷量が落ち込むと跳ね上がるのが通例です。ホウレンソウの価格も前年の入荷量との比較で年次変動したり、需給のアンバランスによる季節変動をつづけながらも、特に70年代、80年代には階段を上るように急ピッチで上昇をつづけました。
 生産者にとってバラ色だった昭和の経済成長期が終わりバブルが弾けると、他の生鮮野菜と同様、ホウレンソウの需要も減り、東京市場の取扱量は下降トレンドを描くようになりました。それにもかかわらず、天候不順で出荷量が大きく落ち込み価格が飛び跳ねた年を除くと、卸売価格はほぼ横ばいに推移するようになっています。
 このような状況下でも生産量、出荷量をともに伸ばしている産地もありますが、多くの生産現場では需要の低迷によりこれまで影をひそめていた問題が顕在化するようになっています。調製作業の機械化が進み束の荷姿がFGに替わるケースが多くなり、高齢に耐えて結束作業をつづけてきた生産者の皆様には作業が軽減されることになった一方で、束がブランドの産地では、束の荷姿はなくなってしまうのではないかという不安を抱えるようになっています。また消費者の安全・安心のニーズにより生鮮野菜は国産という意識が定着しているとはいえ、国内といえども現在では遠く北海道から九州まで空輸により出荷するフライト農業が盛んにおこなわれている時代です。産地間競争、温暖化の問題、再生産価格の維持などさまざまな問題を抱えながらも奮闘をつづける産地、生産者の皆様が、末永くホウレンソウを安定経営の柱にできる手立てはないのでしょうか。
 ここでは、これらの問題や不安を解消できるよう、まずは落ち込んだ需要を回復させるための方策を探るうえで参考にしていただける情報を関係者の皆様からいただき、ご紹介したいと思います。

目  次
T ホウレンソウは価格上昇率No.1 その原因と影響について
 1.指定野菜の価格上昇率

 2.高度経済成長期の野菜価格高騰 ホウレンソウの価格高騰の背景について
 3.ホウレンソウの価格高騰の原因
 4.葉物間の需要の変化 価格高騰の影響について
 5.手作業〜機械化〜自動化へ 調製作業の明日
U ホウレンソウで認知症予防を 需要の拡大で消費者の健康維持・増進を
 1.野菜の健康効果

   @ビタミン・ミネラル・食物繊維 野菜に求める栄養素
   A抗酸化力でガン予防 フィトケミカルの健康効果
   B指定野菜の健康効果 日常の食事で得られる健康成分
 2.野菜の健康機能で生涯を健やかに
   @坂戸市葉酸プロジェクト 市を挙げて野菜の機能を活用
   A研究成果を市民のために 葉酸で健康増進と医療費の低減を実現
   B認知症予防の多様なメカニズム アルツハイマー病予防の最新情報
 3.ホウレンソウをおいしく、安心して摂るために
   @ホウレンソウは栄養の宝庫
   A気になる硝酸、シュウ酸、そしてアスコルビン酸(ビタミンC)
   B食品のシュウ酸対策は直面する課題
   C産地がすすめる安心メニュー
   D(参考)尿路結石症発症のメカニズムと予防法
 
 
 
 
 
 

T ホウレンソウは価格上昇率No.1 その原因と影響について

1.指定野菜の価格上昇率



 
 農林水産省はイチゴなど果実的野菜やキノコも含め野菜92品目について生産量などの統計をとっていますが、中でも全国的に流通している野菜で消費量の多い重要な14品目を指定野菜とし、安定して生産・供給できる体制を整えています。
 また、指定野菜に準ずる重要な野菜として上記野菜(黒字)のほか、わけぎ、らっきょう、みょうが、グリンピース、にがうり、ししとう、オクラ、さつまいも、生しいたけの35品目を特定野菜として地域農業を振興するとともに、地域の特産野菜(うど、芽キャベツ、モヤシ、とうがん、くわい、ラディッシュなど43品目)を含め、私たちの食生活を豊かなものにしてくれています。
 一方、流通面では東京都中央卸売市場が扱う生鮮野菜は、年間取扱量が10トンを超える品目だけでも、キノコを含め約120品目に及んでいます。
 

 

 

 
 需要の多い指定野菜の中で、なぜホウレンソウが価格上昇率1だったのか、その結果、生産〜流通〜消費に至るまでどのような影響をもたらしたのかを調べます。
 
 

2.高度経済成長期の野菜価格高騰  ホウレンソウの価格高騰の背景について

 戦後インフレが収束した直後の1950年、朝鮮戦争が勃発して米軍による物資の買い付けにより特需が発生。この特需景気により戦後の経済復興は急速に進み、国民総生産(GNP)は戦前の水準を回復して55年の神武景気を皮切りに高度経済成長期が開幕しました。年10%の実質成長率を維持した経済成長に支えられ「三種の神器(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)」「新三種の神器(カラーテレビ・クーラー・カーの3C)」に沸いた大衆消費社会が到来したのです。
 1955年から73年(第一次オイルショックの発生により高度経済成長期終了)までの18年間に、国民所得は7兆2990億円から12.6倍の91兆9860億円に、また1人当たり国民所得は8万1758円から84万3104円へと10.3倍に増加しました(1)
 

 

 
 野菜の場合も「洋風化」など消費構造の変化を受けて根菜類などの消費が減ったことから、55年から65年までの10年間に摂取量は11%ほど減少しました。しかし、65年以降は根菜類の需要の下落も緩やかになり、果菜類や洋菜類の消費が増えて、73年までの8年間に摂取量は30%近く増加し、このことは69年から70年にかけて社会問題となった野菜の価格高騰を引き起こす土壌ともなりました。
 高度経済成長にともない農村から都市へ人口が流出した(55年の郡部人口はその年の総人口の44%で70年には同28%に減少した(4))ことは、農業生産者数が減少するとともに野菜の自給者数も減少し、その分、消費者数が増えたことを意味します。
 

 
 グラフでは68年が収穫量のピークとなっています。指定野菜も14品目すべてについて68年は豊作でした。
 グラフでは69年に収穫量が落ち込み、翌70年は微減となっていますが、気象庁によれば、69年は5〜10月に北日本と東日本で低温による農業被害が発生し、また70年は西日本を中心に4月〜7月に長雨による農業被害が544億円に上り、関東地方でも曇雨による日照不足が報告されています。
 

 
 グラフでは、野菜の価格高騰が社会問題となった69年の前年68年は取扱量が67年より7%ほど多く、平均価格は4%ほど下落しています。69年は取扱量が前年より2%ほど増えているにもかかわらず、平均価格は前年より12%上昇し、年次では取扱量の減少は見られないものの、季節変動により限られた期間、年間の平均価格を押し上げるほどの入荷量の落ち込みによる価格の高騰があったことを示唆しています。
 70年は取扱量の前年比は1%に満たない微減でしたが、価格は30%高騰しました。
 

 

 

 
 高度経済成長期に入りしばらく落ち着いていた生鮮野菜の消費者価格は60年代に入ると顕著な上昇をみせるようになりました。
 この対策として、66年には「野菜生産出荷安定法」が成立し、農協などの共同出荷率を高めることにより卸売市場経由率を高めて大産地や遠隔産地から都市部への安定的な大量出荷を実現する一方で、生鮮食品集配センターが設立されて直販体制を促進。予約取引により大量の予定量を直接購入することによりマージン削減や仕入れ労働費を節減できることから、当時、急速に増えたスーパーマーケット(63年には5000店を超えた(2))などに利用されました。
 また、全国の卸売市場が整備、大型化され、これにより卸売市場の集荷力・販売力が高まり、供給量の増加やトラック輸送の普及にも支えられて、東京などの都市部を中心に季節による価格差が縮小。さらに野菜流通が全国的に広域化した結果として地域間の価格差も縮小しましたが、その反面、産地間競争が激化するとともに、一つの大産地の不作が全国に影響を及ぼし、価格上昇をもたらすことにもなりました(4)
 生産者の立場からは、次年度の作付意欲に影響する価格変動(低落)を緩和するため価格補てん事業が制度化されて経営の安定が図られ、また卸売市場の大型化により代金が確実かつ迅速に回収されるようになったことは、当時の卸売価格の上昇とともに生産意欲を亢進させ、高度経済成長にともなう農業労働力の減少を補って大量出荷に寄与する原動力となったことは否めません。
 しかし、このような対策にもかかわらず、野菜の価格は上昇をつづけ、69年秋から70年春にかけての価格高騰は社会問題になりました。
 卸売市場では、価格変動の8〜9割は天候による入荷量の増減によるといわれています。特に大根・白菜・キャベツのような重量野菜やじゃがいも、たまねぎは卸売市場の取扱量に占める割合が大きいため、これらの価格の変動は野菜全体の平均価格に影響するのですが、5品目ともに露地野菜のため台風(大雨で播種した種が流されたり、生育中の野菜が風雨で損傷を受ける)や低温などの気象条件により秋(10月)〜春先(3月)にかけての価格変動が大きく、栽培技術が発達している現在でも同様の現象が起こりがちです。
 しかし、当時はこのような気象条件に加えて、全国的に需要が伸びていること、高度経済成長にともなって農業の中でも最も野菜生産が盛んな都市近郊地域の作付面積が都市化により減少していることなどが加わって価格の高騰をもたらしたと考えられています(6)
 60年代に急速に進んだ価格の上昇について、71年に刊行された『図説・野菜白書』では「野菜高騰の原因は何か」と題して、次のように分析しています。
 野菜の需要は所得向上にともなって増大したのに対し、「生産は一般に零細な経営によって労働集約的に(機械や設備などよりも労働力に大きく依存して)行なわれ、技術水準の立遅れ等から気象変動の影響をうけやすく貯蔵性も乏しい(鮮度が要求される品目が多く在庫調整できない)。この需給両面の性格が需給の均衡を確保するうえできわめて困難な条件となっており、これに需要の価格弾力性の低い(野菜は価格が高騰したからといって需要が大きく減少する商品ではない)こともあって価格変動が大きくなっている。
 また、単価の高い野菜の消費が増加するのに加えて、賃金水準の上昇による生産、流通両面における供給コストの増加傾向等により野菜価格はすう勢的に上昇している」。
(注)青字太字化は筆者による

 


 

 
 野菜の価格は年次変動をつづけながら、高度経済成長期の後も賃金の上昇やオイルショックによる諸物価高騰に影響され、バブルが崩壊し始めた1991年まで急上昇のトレンドを描きつづけました。
 
 

3.ホウレンソウの価格高騰の原因

@夏どりホウレンソウの価格高騰
 
 ホウレンソウは口当たりが柔らかく滑らかな柔滑菜(じゅうかつさい)として、すでに江戸時代初期には料理本におひたしやあえ物の食材として紹介されています。その後、約400年もの間、おもに一般家庭の日常の食材として用いられ、特に戦後は夏どりホウレンソウの品種も開発されて周年、食卓に上るようになり、栄養価の面でも緑黄色野菜として頻繁に消費されてきました。
 農産物としての統計は太平洋戦争勃発の1941年からで、戦後、作付面積、収穫量ともに急増した野菜の一つです。
 

 

 
 ポパイのアニメは日本でも1959年〜65年までテレビ放映され、最高視聴率33.7%を記録(12)。日本中の母親が「ホウレンソウを食べると、ポパイみたいに強くなるのよ」と子供たちに言い聞かせたといわれています(9)。その後80年にも放映されましたが、ポパイアニメは日本国内でもホウレンソウが栄養豊富な緑黄色野菜であることを広く知ってもらう契機となり、需要を呼び起こしたことは否めません。
 

 
 ポパイアニメの放映と時を同じくして、60年代初頭から特に夏どりホウレンソウの価格が顕著な上昇を見せはじめました。ホウレンソウは冬場の葉物の王様ともいわれる存在でしたが、夏場の緑黄色野菜としても人気が高まったのです。
 元来、冬が旬のホウレンソウは高温下での栽培が難しく、夏場は市場の入荷量が少ないため料亭などで業務用に利用されるだけでした。しかし、ハウスの雨除け栽培や露地のトンネルマルチ栽培が導入され、夏でも栽培できる品種が開発されると、当初は夏期冷涼な東北や北海道から雨除け栽培(ホウレンソウは高温時に雨に当たると腐る)された夏どりホウレンソウが東京市場に入荷するようになったのです。
 その後も夏場の需要は伸びつづけ、70年代になるとオイルショックで燃料、ビニールフィルムなどの農業用資材が高騰しましたが、減反による転作作物として価格が魅力の夏どりホウレンソウを手掛ける生産者が中山間地(平野の外縁部から山間地)でも平地でも跡を絶たず、卸売市場の入荷量が増えたにもかかわらず、需要は伸びつづけて価格はさらなる上昇をつづけました。
 当時は緑黄色野菜として地域的には特定野菜の小松菜などもありましたが、指定野菜の品目でも明らかなように、全国的に流通している葉物はホウレンソウだけで、なおかつホウレンソウは和洋中華の料理を問わず幅広いメニューに利用できるうえ、葉が柔らかいので幼児からお老寄りにまで好まれた葉物だったのです。そのため、夏場も供給できるようになると、潜在需要が呼び起こされて供給が追い付かず、価格は上昇しつづけました。
 夏どりを除くその他ホウレンソウの価格は1965年〜2011年までの46年間に35.4円から401.4円に上昇し、上昇倍率は11.3倍。夏どりも入れた東京市場の年間平均価格は36.1円から441.7円に上昇して12.2倍(全国市場は435/35円で12.4倍)。したがって、ホウレンソウの年間平均価格上昇には、夏どりホウレンソウの価格上昇もわずかながら寄与していたことになります。
 ちなみに、この間に東京市場が取り扱った野菜の平均価格は43円から222円で上昇倍率は5.2倍。全国市場では37円から197円で5.3倍の上昇でした。
 
A集出荷経費の高騰
 
 ホウレンソウは調査がはじまった当初から指定野菜の中では集出荷経費が最も高く、2011年までの上昇率も群を抜いて高い。
 

 

 
 指定野菜(里芋とじゃがいもを除く)各品目の卸売価格に対する選別(調製)・荷造り労働費の割合は賃金の変動、市場入荷量の増減などによる卸売価格の変動、選別(調製)作業の機械化による労働時間の短縮などにより変化します。
 収獲した時点からすでに商品の荷姿をしたレタスやキャベツとは異なり、ホウレンソウの荷姿は数株〜十数株から成り、商品として仕上げるまでにすべての株の下葉除去(下葉は黄変する)が必要です。そのうえ袋詰め又は結束の前に水洗いする産地もあります。
 そのため、当初から他の品目に比べて労働費が多額に上り、卸売価格に対する労働費の割合も高く、経済成長にともなって上昇しつづけた賃金の影響を最も大きく受けた品目です。そして、このことが高度経済成長期以降、指定野菜の中でホウレンソウの価格上昇率を最も大きく押し上げた原因と考えられます。
 調製作業の長時間労働は、生産拡大をめざす産地や生産者にとっては生産拡大のボトルネックとなっていますが、同時に消費者にも価格の著しい上昇による経済的負担を負わせてきたことになります。
 
 以上、高度経済成長期以降のホウレンソウの価格上昇は、安定成長期〜バブル期まで、所得増や諸物価高を背景に野菜の生産・流通面でも賃金や流通資材価格が上がり、野菜価格が趨勢的に高くなる環境にあって、卸売価格に対する選別(調製)・荷造り労働費の比率の最も高いホウレンソウが賃金上昇の影響を最も強く受けたことが最大の原因となっています。
 また60年代にはポパイアニメのテレビ放映によりホウレンソウが栄養価の高い野菜であることが広く知られるようになり潜在需要を呼び起こす契機となったこと、全国的に流通する緑黄色野菜の葉物は当時はホウレンソウしかなかったこと、夏用品種の開発やビニール資材の普及、栽培技術の発展、減反による生産者の増加などにより夏どりホウレンソウの生産量、出荷量が増えましたが、それ以上に需要が高まって価格を押し上げたことにより、夏どりホウレンソウもわずかながら年間の平均価格を押し上げたことなどが、需給バランスの面から価格高騰を促したと考えられます。
 
 

4.葉物間の需要の変化  価格高騰の影響について

@平成期における指定野菜の価格下落率
 

 

 
  数ある野菜のなかでも特に需要の多い指定野菜の全国卸売市場取扱量は89年にピークをつけた後、特に2000年代には顕著な減少ラインを描き、野菜の卸売市場経由率が2007年を底に下げ止まった後も下がりつづけましたが(図1-17)、この現象は野菜全体にも見られます(図1-10)。
 
A葉物間の需要の変化と生産現場・スーパーマーケット・消費者の対応
 
 日本列島が10個の台風に襲われたうえ、10月には大雨に見舞われた2004年は、東京市場への入荷量減少が野菜全体に及びましたが、ホウレンソウも取扱量が落ち込み、価格が跳ね上がって戦後3番目(全国市場では2番目)の高値をつけました。
 この年、東京市場でホウレンソウにとって大きな出来事がありました。市場年報の統計欄に「みず菜」がデビューしたのです。
 みず菜は古くから関西などでは日常的に用いられてきた野菜で、サラダによし、煮物によし、冬には鍋物にもよしとされる便利な葉物ですが、東京では馴染みが薄く、東京市場の統計では「他葉茎菜類」に入れられていた野菜でした。それが、2000年頃から入荷量が増えはじめ、現在では、かつて関東の葉物だった小松菜と同様、北海道から沖縄に至るまで、全国で流通しています。
 市場関係者によれば、みず菜の入荷量増加は葉物間の需要を変化させることになりました。これを契機に葉物の需要がホウレンソウ、小松菜、みず菜などに分散されることになり、特に東京で昔から親しまれてきた小松菜の勢いを強めることになり、それまで強力なライバルのいなかったホウレンソウの需要は、野菜全体の需要が低迷する環境にあって、東京市場での需要減少の勢いを加速させました。
 

 

 
 全国のホウレンソウ生産現場では、主に夏場のフザリウム菌などによる被害を回避するために以前から小松菜などの葉物を輪作に組み入れるケースが多かったのですが、東京市場へ出荷している地域では、この間の需要の著しい減少にともない、ホウレンソウの代わりに小松菜の作付けを増やしている生産者が目立ちます。
 特に、これまで温暖化の環境にあって高齢化に耐えながら露地でホウレンソウの生産をつづけてきた生産者の多くは、栽培の難しい夏どりや秋口に播種するホウレンソウを、栽培も調製作業もホウレンソウに比べて容易な小松菜に切り替え、ホウレンソウは卸売価格が上昇する年末出荷を念頭に播種するという作付け体系に組み替えています。
 スーパーでは、ホウレンソウは以前は平束の荷姿で、葉物の王様として売場の棚にならぶ野菜全体の鮮度の良さをアピールする象徴的存在でしたが、現在では主にFG袋の荷姿で、数ある野菜のなかの1品目として他の葉物と同じ扱いで棚を分け合って並んでいます。
 スーパーの仕入れは直販により卸売市場を経由しないケースが多いのですが、以前は店によってはホウレンソウと小松菜に同じ価格を表示している所もありました。このような場合にはホウレンソウの方が売れ行きがよいため小松菜の倍のスペースを取っている所もあり、同じスペースのスーパーでは、夕方になると小松菜で埋まった棚に対してホウレンソウの棚は売り切れ状態でした。
 消費者の立場からは、かつては葉物といえばホウレンソウを購入し、現在でも根強い需要がありますが、高度経済成長期の頃から指摘されていた食の多様化、簡便化が、より高度な水準で進んでいる状況のなかで、選択肢の増えた野菜売り場では、特にホウレンソウの価格が高騰したときは、調理のメニュー、手間なども秤にかけ、価格が手ごろで調理の簡便な種類の葉物を撰ぶようになっています。
 

 
 また、加熱調理用の野菜では、ブロッコリーの需要がホウレンソウと反比例するように伸びています。為替レートが円高の頃は輸入物が季節により国産物の約6割〜4割程度の98円を常時維持していたスーパーもあり、消費者の人気を集めてきました。
 店頭で見る限り、消費者がホウレンソウを敬遠する最大の理由は、身近な葉物としては価格があまりにも高くなりすぎてしまったからのようです。
 
B加工・業務用の野菜とホウレンソウについて
 
 野菜の国内生産量は82年をピークに減少に転じ、輸入量の増加により補われていますが(図1-4)、野菜の需要は家庭消費用に比べ加工・業務用が増加傾向にあり、2011年には56%を占めるに至っています(10)。加工・業務用には安価な仕入れ価格が求められるため海外から調達するケースが多い一方で、食の安全・安心志向が定着した社会風潮を背景に、加工・業務用の70%には国産野菜が使われています。
 国産野菜の仕入れ価格も家庭消費用より安価で、加工・業務用ホウレンソウの価格は生鮮用の66%に抑えられています。加工用の1例として冷凍用ホウレンソウの場合は約50pまで育てた株を、株元から5p以上残して収穫し、10e当たり収量は家庭消費用の約1.5倍になります。
 また、レストランなどでは、ホウレンソウが主食材の料理はともかく、メニューによっては価格の高騰により安価な野菜や他の食材に代えた所もあります。
 かつて東京ラーメンにはシナチク(メンマ)の隣で濃緑のホウレンソウが食欲をそそっていましたが、価格の高騰にともなってホウレンソウが消え、代わりにモヤシや小松菜、カイワレ、ワカメなどが使用されるようになっています。
 また中国製の冷凍ホウレンソウを使用していたある店では、残留農薬が検出された2002年以来、人気のパスタソース(ツナとホウレンソウのクリームソース)の食材を国産の生鮮に切り替え、卸売市場から仕入れているのですが、使用量を冷凍の時の1/3に抑えて採算をとっています。
 市場関係者によると、ホウレンソウは価格高騰により東京のラーメンから消えましたが、その一方で、9月の高値の時期にも、子供たちの元気回復のために小学校給食の献立に使われています。
 
 ホウレンソウは長時間の調製作業を必要とする自らの特性ゆえに価格を高騰させ、その価格の面では敬遠されがちな野菜となり需要の減少を加速させてきましたが、かつてポパイが示してくれたように栄養豊富な葉物という、価格に対抗できる大きな特質を備えた野菜でもあるのです。この特質を活用することこそが、ホウレンソウの当面の需要を回復させるキーポイントなのではないでしょうか。
 
 

5.手作業〜機械化〜自動化へ  調製作業の明日


 
 一般にホウレンソウといっても加工用を除けば、高級料亭向けや贈答用などの高級食材として用いられるもの、一般のレストランなどで業務用に使用されるもの、そして家庭消費用のものがあります。このうち高級食材用は別として、生産者の労働負担を軽減するためにも、消費者が購入しやすい価格に抑えて需要を伸ばすためにも、そして、その需要に応えて生産拡大能力を上げるためにも、調製作業時間を短縮することが求められます。
 事例集の中から特に取り入れたい要点を挙げますと、まずは調製作業を比較的効率よく処理できている事例では、荷姿や機械化の有無を問わず、均一に揃ったしっかりした株に育てるための土づくりや施肥方法などホウレンソウの生育特性に適した栽培技術を駆使していることが分かります。周年、6〜7株ほどで200〜250gになるような株は機械処理しやすく、また手作業による調製でも下葉除去も容易で計量も一定の株数で済みます。
 共選所(共同調製作業場)の利用により栽培と調製を分離する場合は特に、均一でしっかりした株に仕上げる栽培方法を生産者に徹底することが求められます。
 また、マルチ栽培のような点播による播種の場合は、無資材の場合でも収穫、調製を数株ずつ処理できて調製時間の短縮に効果的です。その上、収穫で一度手にした株を結束または袋詰めまで畑で処理できると、さらに時間を短縮できます。
 また、荷姿は、レストランなど業務用の場合は、Lサイズまで目一杯に育てて300g以上の丸束にすると、10e当たり収量を伸ばせる上、s当たりの束数を減らすことにより調製時間も短縮でき、畝でホウレンソウと向き合って収獲、調製して束に仕上げると、さらに効率的です。
 また露地の場合は気象条件次第ですが、収穫時に下葉除去後、株元の汚れをタオルで拭うことで水洗を省いている事例もあり、土汚れを残さないためには根をできるだけ短く除去する方法もあります。
 収穫後のホウレンソウを商品の荷姿にするまでの工程は、日々の作業でさまざまな工夫が凝らされていますが、作業時間の短縮は一般の製造工場と同様、1秒、2秒の手間を省くことが基本です。根を上にして収納したコンテナから株を手に取り下葉除去後、手枡で計量して結束するまでの作業空間を最小限にして、家族で作業に打ち込んでいる事例現場は、まさにベルトコンベアーを前に部品を組み立てている製造工場の空気と同じでした。他所の作業現場を視察することも、日常の作業の無駄を気づかせてくれる良い機会になると思います。
 機械化は調製作業時間を短縮するだけでなく高齢者の作業従事を可能にするのためにも効果的ですが、規模の大きな農場はともかく、家族経営の小規模農場では経済的負担を軽減するため、地域や出荷組合で機械を共同購入し、作業を当番制にすることも選択肢の一つです。

 ご紹介した事例にみられるように、生産現場では調製時間短縮のためにさまざまな工夫がなされていますが、現時点では一部で機械化が進められているとはいえ、ホウレンソウの調製は依然として労働力に大きく頼らざるを得ない状況です。
 生産現場での選別(調製)・荷造りの労働負担を軽減するとともに、価格を下げて需要を拡大するためには、収穫作業も機械化し、収穫機で刈り取ったホウレンソウの袋詰め〜箱詰め〜荷積みまでの作業を全自動化することが理想です。
 「ロボットのセンサーが収獲したホウレンソウの株元を1株ずつ感知してコンテナから抜き取り、高性能の調製機に送って下葉も汚れも除去して根を切り落とした後、指定した重量に計量してFG袋に落とす。さらに指定した袋数をまとめて段ボールに落として封をし、荷積みする」
 これまでの習慣や規格を白紙に戻し、ホウレンソウ生産のすべてを生産者と消費者の両視点から見直して、このような自動化を実現することにより、生産者は株の揃った美味しいホウレンソウの生産と販路拡大のための営業に専念することができます。そして、これまで長時間の調製作業で得てきた労働費の代わりに生産拡大により収入を増やせる環境を整備し、価格を下げることができれば、家庭消費用はもちろん加工・業務用の販路拡大も期待でき、生産者と消費者共に利益を得ることができると考えられます。
 全自動化のラインは、経済面・技術面で難しい課題に直面することは必至です。技術面では、先進諸国のホウレンソウ関連の工場(農場の調製作業場も工場と呼ばれている)を幅広く視察することで、また国内で採用している部分的な機械化も取り入れることにより、このような自動化されたラインの形成が、難しさは伴うものの実現可能であるという展望が開けてくると思います。
 他の食品産業の自動化技術も取り入れて、これまで開発された調製・包装の機械をつなぎ、最低でも袋詰め・箱詰めまでの自動化ラインを開発し、先進的な農場や出荷団体から導入していき、家族経営の農園も利用できる体制を整えていくためには、同時に需要拡大の宣伝活動も含め、個々の産地を超えた全国的なホウレンソウ産業としての取り組みが必要ではないでしょうか。
 最後に、生鮮野菜の命は鮮度です。収穫したままの姿の野菜が山積みされて、それぞれの鮮度をアピールし消費者の購買意欲をそそってこそ生鮮野菜売場の本来の姿で、そのような売り場ではみずみずしいホウレンソウの束に限らず、鮮度の良い野菜に思わず消費者の手が伸びます。
 ホウレンソウの自動化ラインに結束の工程も加え、仕上げにシャワーをくぐらせて軽く脱水して箱詰めする。段ボールは詰める時は上から、小売店舗では横から開いて重ねた束をそのまま棚に移動できるように工夫すると葉を傷めずに作業できます。束は、見慣れた美しい平束に仕上げるためには一定の重量が必要です。一人暮らし世帯用には、一部の地方でみられるような丸束の荷姿でもよいのではないかと、消費者の一人としては思っています。
 こうすることで、みずみずしい束ほうれんそうファンの消費者にとっても、束がブランドの産地の生産者も、さらには販売店も満足できる結果が得られるようになるのではないでしょうか。
 
 全国の生産現場の取材を終えた今でも、あるホウレンソウ農家の奥様の言葉と有名な国内の企業創業者の言葉が心に焼き付いています。
「この仕事(調製作業)は好きですが、同じ一生を送るならもっと自由な時間のある生活がしたかったと思います」
「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」立石一真
 

謝辞

 この項の執筆に当たり、生産者の皆様、東京市場関係者の皆様、スーパーマーケット青果担当者の皆様はじめ多くの皆様に情報のご提供をいただきました。厚くお礼申し上げます。
 
 
主な引用、参考資料
(1)総務省『日本長期統計総覧』
(2)高野泰吉『園芸の世紀2 野菜をつくる』 八坂書房 1995年
(3)松山良三『日本の農業史』 新風舎 2004年
(4)藤島廣二「生鮮食料品の流通・価格問題」
   戦後日本の食料・農業・農村編集委員会『高度経済成長期V』一般財団法人農林統計協会 2004年
(5)佐倉朗夫「野菜卸売市場における旬別価格の時系列変動要因分析」
   神奈川県農業総合研究所研究報告第132号 1990年
(6)農林省『図説・野菜白書』(財)農林統計協会 昭和46年
(7)野菜供給安定基金『野菜の需給と価格-30年の軌跡-』(財)農林統計協会 平成8年
(8)千葉県野菜園芸発達史編纂会『千葉県野菜園芸発達史』昭和60年
(9)http://www.sakata100th.jp/episode/04/
(10)農林水産省「野菜をめぐる情勢」平成25年11月
(11)http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0706/joho01.html
(12)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%91%E3%82%A4
 

 
 

U ホウレンソウで認知症予防を 需要の拡大で消費者の健康維持・増進を

1.野菜の健康効果


 
 人の成長、生命維持、活動に欠かせない食物の野菜は、植物として根と葉から窒素(硝酸やアンモニアから)、水素(水から)、酸素(空気と水から)、炭素(おもに炭酸ガスから)、リン、カリなど17種類の必須元素(必須要素)を取り込み、太陽の光エネルギーを利用して有機物(糖質・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維・フィトケミカルなどを含有)やエネルギーをつくりながら生育し、花芽をつけ開花して果実・種子を結びます。
 

 
@ビタミン・ミネラル・食物繊維 野菜に求める栄養素
 人が食品から摂取する3大栄養素とエネルギーのうち、野菜から摂取する割合は糖質(炭水化物)6.4%、タンパク質4.6%、脂質(脂肪)0.7%、エネルギー3.9%とわずかです。
 人が野菜に求める主な栄養成分は、野菜が土から吸収した必須元素(ミネラル)と野菜が自ら合成した成分のビタミンや食物繊維、そして機能性成分のフィトケミカルで、摂取量はともに3大栄養素に比べると微量ですが、人の健康を支える成分として重要です。
 

 
☆ビタミンの健康効果
 ビタミンは糖質、タンパク質、脂質のように体を構成したりエネルギーをつくることはできませんが、これら3大栄養素の代謝を促す酵素を活性化させる補酵素として働いたり独自の生理作用により生命活動に重要な働きをするため、欠乏すると体にさまざまな異常をきたします。
 必要量は微量ですが、人の体内では合成に必要な酵素がないためつくることができないか、腸内細菌などにより合成されても必要量を満たすことができないため、食物などから一定量を摂り入れなければならない有機栄養素です。
 

 

 

 

 
☆ミネラルの健康効果
 人体に存在する元素のうち炭素、水素、酸素、窒素以外の元素は体重の5%を占め、これらはミネラルと呼ばれています。このうち16種類が健康維持に欠かせない必須ミネラルとされ、体内存在量により主要元素(多量元素)と微量元素に分類されています。
 ミネラルはエネルギー源にはなりませんが、体の構成成分となったり、酵素の成分となって化学反応を促したり、また細胞内外にイオンの形で存在して細胞の浸透圧を調整したり神経、筋肉、免疫機能を維持するなど、健康を維持するために重要な働きをしています。
 

(注)塩素を除いてフッ素を、またはコバルトを除いてフッ素を16種に加える説もある。
 


 
☆食物繊維の健康効果
 食物繊維は人の消化酵素で消化されない難消化性成分(木質素のリグニン以外は糖質)で、植物の細胞壁をつくっている不溶性成分や植物細胞内の水溶性成分が大部分を占めています。
 健康効果としては従来から便秘予防や腸内環境を整える作用がよく知られていましたが、このほかにも肥満防止、生活習慣病予防、虫歯予防などさまざまな作用で健康維持に役立つことが明らかにされています。
 また近年では、消化されずに水分で膨らんだ食物繊維を、さまざまな細菌が大腸で嫌気的に分解(発酵)して酢酸、酪酸やプロピオン酸などの有機酸を生成し、これらがエネルギー源として体内に吸収されたり腸の栄養源となり、さらには腸管の血流を増やしたり腸管の運動を調整したりするなど新たな生理機能が明らかになり、現在ではビタミン、ミネラルを含めた5大栄養素に次ぐ6番目の栄養素として注目されています。
 

 

 
A抗酸化力でガン予防 フィトケミカルの健康効果
 植物がつくりだす糖質、タンパク質、核酸、脂質などは、植物の生命維持、生長、増殖に必須な物質として一次代謝産物と呼ばれ、どの植物にも共通した含有成分です。地球上に存在する炭素化合物の中では最も多いといわれるセルロースも、リグニンとともに植物体を支える重要な働きをしていることから、高分子化合物ではありますが一次代謝産物に分類されています。
 これに対して、植物の生命活動に直接的な支障をきたさない化合物は二次代謝産物とされ、植物の種類により含有する化合物は異なります。具体的には植物が有害なものから身を守るために合成する色素や香り、辛み、苦みなどの成分で、植物全体で数千〜数万種類に及ぶともいわれています。これらは人類の長い歴史の中で染料や香料、さらには農薬や医薬品として利用されてきました。
 植物の二次代謝産物は栄養学ではフィトケミカルと呼ばれ、人にとっても通常の身体機能を維持する上では必要とされない(栄養素ではない)と考えられていますが、近年、ガン、心臓病、脳卒中などが死因の上位を占めていることから、細胞の酸化を防ぐことにより、これらの病気予防に有効とされるビタミン B2(酸化物質を分解)やビタミンC・E(活性酸素を消去)とともにフィトケミカルの抗酸化作用への関心が高まっています。
 フィトケミカルは人の健康維持・増進に果たす役割の重要性から食物繊維に次ぐ「7番目の栄養素」とする見方もありますが、一般的には「機能性成分」として捉えられています。
 
☆活性酸素は両刃の剣
 人は呼吸により空気中の酸素を毎日500リットルも取り込んで体重に匹敵する量のエネルギー(ATP)をつくり生命活動に使っていますが、この体内に入った酸素の数%が呼吸など正常な生命活動の営みによっても、反応性が高く酸化力の強い活性酸素に変化します。
 活性酸素は体内に侵入したウイルスや病原菌を殺菌して感染症を防いだり、生体内で生理的なシグナル伝達機能を果たすなど、人の健康維持に欠くことのできない働きをしています。
 しかし、その一方で、過剰に発生した活性酸素が生体成分と反応し、細胞を酸化させて機能を低下させたりDNAを損傷させることにより老化を促進し、動脈硬化、糖尿病、ガンなどの生活習慣病を発生させるきっかけとなるなど、さまざまな酸化傷害を引き起こすことは看過できない大きな問題です。 
 幸い、人の体内には分解酵素などが活性酸素を消去して生体を防御するシステムが備わっています。このような活性酸素を分解処理する助っ人がスカベンジャーで、細胞の酸化を防ぐスカベンジャーの働きが抗酸化作用です。
 活性酸素の酸化作用とスカベンジャーによる生体防御作用のバランスが崩れた状態は酸化ストレスと呼ばれ、人にさまざまな病気をもたらします。人は体内で生成するスカベンジャーだけでは活性酸素による傷害を防御しきれないため、毎日、野菜や果物などの食品から抗酸化作用のある成分(スカベンジャー)を補給しなければなりません。
 


 

資料:日本化学会監修「夢・化学-21 活性酸素」丸善刊

 
☆野菜に含まれるフィトケミカル
 

 

 
 抗酸化作用による予防効果が期待される病気の一つ、ガンは人口10万人当たりの死亡原因で最も多い病となっています。
 このガンを予防するメカニズムは多種多様で、抗酸化作用のほかに免疫力賦活作用、細胞周期(DNAの複製準備から細胞分裂終了まで)の阻害、ガン細胞のアポトーシス(個体をより良い状態に保つためにプログラムされた細胞死)誘導や分化誘導(増殖するだけのガン細胞を分化誘導することにより正常な細胞に戻す)、ニトロソアミン(発ガン物質)合成阻害、DNA修飾(DNAを構成する塩基のHをメチル基CH3に置き換える発ガンの原因となる反応)の阻害作用やフィトエストロゲン機能(フィトケミカルのエストロゲン《女性ホルモン》様の機能)、解毒酵素の誘導・活性化などが挙げられています。
 近年ではフィトケミカルの抗酸化作用とともに解毒酵素誘導作用によるガン抑制作用が動物実験や人での実証研究、疫学調査により明らかにされ、ユリ科ネギ属のニンニク、タマネギなどに含まれる揮発性硫黄化合物アリシンやアブラナ科野菜に含まれる硫黄化合物の辛み成分イソチオシアネートなどが注目を集めていますが、アメリカ国立ガンセンターが発表した「ガン予防の可能性のある食品のピラミッド」にはこれらの野菜が7種類も取り上げられています。
 

 
 一方で、抗酸化力の強さに焦点を当てたピラミッドでは、バナナを頂点にレンコンも強い抗酸化力を示し、次いで茶葉、ニンニクが、そしてタマネギとホウレンソウが同じ強さで、さらにガン予防ピラミッドで最高位に分類されていたニンジンがつづき、アブラナ科の小松菜、大根も4段目にリストアップされています。シイタケ、マイタケ、エノキといったキノコ類がランクインされているのも、このピラミッドの特徴の一つです。
 

 
B指定野菜の健康効果 日常の食事で得られる健康成分
 日常生活で頻繁に食卓に上る指定野菜は、数ある野菜の中でも人々の健康への影響がより大きいと考えられます。これらの野菜に含まれる健康成分を知ることにより、野菜をたっぷり効果的に摂る日々の食事の積み重ねが健やかな日常の暮らしを運びつづけてくれるはずです。
 野菜は種類によって含まれている健康成分が多種多様です。指定野菜のほかにも、できるだけ多種類の野菜で食卓を彩り、楽しみながら摂取することも心がけたいものです。
 




 
 

2.野菜の健康機能で生涯を健やかに

@坂戸市葉酸プロジェクト 市を挙げて野菜の機能を活用

 


                             資料:坂戸市ホームページ
 
☆葉酸プロジェクト立ち上げの経緯 ←クリック
 
☆さかど葉酸プロジェクトと野菜 女子栄養大学副学長 香川靖雄 ←クリック
 
 葉酸プロジェクトの取り組みは血管疾患や認知症を予防するだけでなく、葉酸に注目しながらも野菜を多く摂ることで予防できる生活習慣病など多くの病をも減らすことのできる健康効果も期待されています。
 さらに、この運動は野菜の消費量を増やし、小規模露地栽培農家の多い地元の野菜生産を活発にするなど、農業振興の面でも役立っています。
 なお、この葉酸プロジェクトを組み入れた『地域資源と連携した市民との協働による健康づくり運動』は2013年に厚生労働省主催の『第2回健康寿命をのばそう!アワード』で厚生労働省健康局長優良賞(自治体部門)を受賞しました。 『第2回健康寿命をのばそう!アワード』優良賞受賞! ←クリック
 
 
A研究成果を市民のために 葉酸で健康増進と医療費の低減を実現
 坂戸市が市を挙げて市民1日400μg*1の摂取をめざしている葉酸は、日々の食事で十分に摂取することにより、妊産婦にとっては胎児の脊椎二分症や低体重児出産の予防、一般の人や特に高齢者にとっては貧血、骨粗鬆症、うつ、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、認知症などの予防に必須なビタミンとして広く知られています。
 市内にある女子栄養大学の副学長 香川靖雄教授(医学博士)はこの葉酸の研究に長年、取り組んでこられ、遺伝子の関係で葉酸が吸収しにくい人(日本人の10人に1.5人)も、また葉酸を有効な状態で吸収しにくい高齢者も1日400μg摂取することにより、これらの病気を予防することができることを明らかにしました(厚生労働省の摂取推奨量は18歳以上、高齢者も含め1日240μg)*2
 香川教授の研究成果を踏まえ、坂戸市では市民の誰もが無理なく葉酸を十分摂取できるように、野菜など葉酸の多い食材を摂るキャンペーンを展開するとともに、身近な食品に葉酸を添加することにより、市民の健康を維持・増進して市の医療費の低減をも実現しています。
 広く海外へも目を向けると、世界中の多くの国々では国民の健康を守るための効果的な方策として、それぞれの国の主要穀物に葉酸を添加していますが、2012年現在、実施国は72か国に上っています。
 全国的に医療費抑制が重要課題となっている昨今、香川教授は日本でも葉酸添加米が実現できるよう葉酸摂取の重要性を広く発信しつづけています。

資料:香川靖雄「食べる順序、速度、時間で体が変わる:時間栄養学セミナー」


 
☆認知症とホモシステイン 画像提供・解説:女子栄養大学副学長 香川靖雄
 

 葉酸の摂取不足により血液の中に蓄積されるホモシステインというアミノ酸は、心筋梗塞、脳梗塞、認知症という寝たきりになる(高額医療費のかかる)病気の発症原因になりますが、高齢者や遺伝子多型を持つ人(10人に1.5人存在)は葉酸が吸収されにくいため、これらの病気を予防するには一般的な葉酸の摂取推奨量240μgでは不十分です。そのため、日常的に誰もが健康維持できる1日400μgの葉酸を摂取できるよう、吸収されやすいモノグルタミル葉酸の添加米を流通させることが必要です。
 

 ホモシステインは脳細胞と血管内皮細胞を傷つけてアルツハイマー病や血管性認知症を発症させるのですが、葉酸がこのホモシステインをメチオニンに代謝させることにより予防します。
 

 血清ホモシステインは葉酸不足などが原因で健康な時からでも蓄積していきますが、蓄積された血清ホモシステインは濃度が高くなるほど認知症発症の危険度が高まり、血清1リットル当たり14μm以上になると10.8μm以下の5倍も高くなります。
 

 人が摂取した葉酸は代謝してホモシステインの生成を防ぐ働きをするのですが、この代謝に関係した遺伝子がTT型の人は認知症になりやすいことが明らかにされています。
 

 これは血中ホモシステインが高くなるにともない、脳梗塞の発見頻度も上昇することを示しております。多くの場合Hcy*の基準は10未満とされていますが、もっと低いにこしたことはないように思われます。我々は7未満を目標としてテーラーメイド栄養指導を実施しております。
*Hcyはホモシステイン
 

 認知症であるからなのか、高齢であるからなのかは不明ですが、このように認知症高齢者の葉酸濃度は低めで、Hcy は高くなっていますが、どの集団でもTT型では葉酸濃度が低く、Hcy濃度が高めの傾向となりました。
 

 葉酸を3年間、1日800μg摂取した試験によると、摂取した被験者は偽薬服用者(試験での葉酸摂取なし)に比べて記憶力、感覚運動速度、情報処理速度が顕著に高く、全体認知能も3倍以上高まって、全体認知機能の低下を防ぐことができました。 n=被験者数
 

 軽度認知症患者(76歳)にホモシステインの蓄積を防ぐ葉酸800μg/日・ビタミンB12・B6(ともにホモシステインの代謝に必須)を2年間投与した結果、葉酸摂取者は脳の萎縮を予防することができました。
 

 高ホモシステイン血症は、血管内皮障害や酸化ストレスの亢進によって、脳梗塞などの動脈硬化性疾患の危険因子となることが知られています。近年、認知症との関連も指摘されています。
 認知症は脳梗塞による血管型認知症と並んでアルツハイマー型認知症が大部分を占めますが、アルツハイマー病の誘因の一つとして、アミロイド前駆体、プレセリニン、セクレターゼβの遺伝子のプロモーターのメチル化が低下し、これらが増加します。(すなわちエピジェネティクスに起こりますが)、DNAメチル化のメチル基供与体であるS-アデノシルメチオニンはメチオニンからホモシステインへの中間代謝産物です。
 ホモシステインの代謝経路の主なものは2つあります。1つはメチオニンに転換される再メチル化経路で、摂取葉酸由来の5メチルテトラヒドロ葉酸がメチル基供与体として必要とされ、この反応を触媒するメチオニン合成酵素にはB12が補酵素として必須です。
 もう一つの代謝経路は、B6依存性であるシスタチオニンβ合成酵素によりシスタチオニンへ変換される経路です。
 このようにホモシステインの代謝には葉酸だけでなくビタミンB12やB6もかかわっており、これらの不足によっても血中ホモシステインの増加をきたします。
 さらにこれらの反応にはいくつかの遺伝子多型が影響しており、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の677番目の塩基がシトシンからチミンに代わった多型変異型では酵素活性が低下し、葉酸を十分に摂取していてもCCやCT型より血中葉酸濃度が低く、ホモシステイン濃度は高値を示します。こうした多型間の差は葉酸サプリメントで200μg/日、補充することで解消されることは平岡らによって報告されています。
 では、認知症予防や進行を遅らせるためにホモシステインの上昇を抑えるには、どのようにしたらよいでしょうか。これまでわが国で認知症患者の葉酸摂取状況やホモシステイン濃度を詳細に検討した例はありません。そこで今回、認知症患者の葉酸摂取状況を調査し、さらに血中葉酸濃度、ホモシステイン濃度と、これらの代謝関連酵素の遺伝子多型、すなわち、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、B12が補酵素のメチオニン合成酵素(MS)、それと葉酸が小腸で吸収されるときの輸送体の多型の関連を検討しました。
 

 その結果、葉酸代謝関連の遺伝子がTT型の人は、摂取した葉酸が吸収されにくく、認知症になりやすいことが分かりました。
 

エピジェネティックスとは、DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム
 葉酸の十分な摂取は、ビタミンB12、B6とともに認知症の危険因子ホモシステインの蓄積を防ぐことにより認知症を予防しますが、図の何本もの赤い矢印の経路をたどっていくと分かるように、葉酸はこの他のさまざまなメカニズムでも認知症を予防します。
 
 
B認知症予防の多様なメカニズム アルツハイマー病予防の最新情報
 

 
 厚生労働省によると、認知症とは「いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。また、国際アルツハイマー病協会では脳の具体的な機能の状態から「記憶、判断、認知、言語、計画、人格など、さまざまな脳の機能が長期にわたって低下する状態」と認知症について定義しています。
 認知症は発症のメカニズムによりいくつかの種類に分類されていますが、中でも患者数がもっとも多いのがアルツハイマー病です。
 

 
 アルツハイマー病には、遺伝とは関係なく高齢などによって脳が萎縮し急激に認知機能が衰える「孤発性(遺伝性でないという意味)アルツハイマー病」と、遺伝により発症する「家族性(遺伝性)アルツハイマー病」があります。
 「家族性アルツハイマー病」の発症者は変異した特定の遺伝子を持ち、その遺伝子を引き継いだ家族も高い確率で若年性(65歳未満で発症)アルツハイマー病を発症しますが、アルツハイマー病患者全体からみると1〜5%程度(日本では3%)と少なく、ほとんどが高齢で発症する孤発性アルツハイマー病患者といわれています。
 親が家族性アルツハイマー病を発症した家族は発症の確率は高いものの、すべての人が発症するわけではないのですが、常に不安を抱えて暮らしています。その家族たちの積極的な協力により大規模な国際研究(DIAN研究)*が実施され、研究開始から7年後の2012年、念願のアルツハイマー病発症までの脳の変化が解明されて予防への道が開かれました。
*DIAN(ダイアン・Dominantly Inherited Alzheimer Network・遺伝性アルツハイマー病ネットワーク)研究。米国ワシントン大学を中心に2005年にスタートし、米国の他の施設やイギリス、オーストラリア、ドイツの研究機関の協力のもとに進められた世界の最先端を行くといわれるアルツハイマー病の研究。
 研究の目的は、家族性アルツハイマー病の遺伝子をもつ可能性の高い家族を、アルツハイマー病を発症する前から長期にわたって追跡することにより発症への変化を検出し、発症前のどれくらい前から脳に変化が現れるのかを調査すること。
 2012年に研究成果が発表され、発症の25年も前から脳の変化が始まるというアルツハイマー病発症のメカニズムが明らかにされた。この研究成果に基づいて2013年には予防研究としてDIAN-TU(ティーユー・Trial Unit・臨床試験ユニット)がスタート。この研究は発症前の適切な時期から予防薬を投与することによりアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβを除去することを目指す臨床試験で、これまで治療薬として開発されてきた未認可薬を治験(薬の臨床試験)に使用。2016年に最初の結果が発表される予定。

 
 研究の結果、アルツハイマー病の原因遺伝子をもつ人(キャリア)の脳には発症の25年ほど前からアミロイドβというタンパク質が蓄積しはじめ、また発症の15年ほど前からは、神経細胞内にタウというタンパク質が集まり、「タウのもつれ」といわれる変化が起きて神経細胞を死滅させ、認知機能などを衰えさせていきます。
アミロイドβの蓄積
 アミロイドβは脳の神経細胞でつくられるタンパク質(主成分)で、神経細胞の外(脳内)へ分泌される。キャリアの脳では、この老廃物のアミロイドβが脳内からスムーズに排出されず、発症の25年ほど前から溜まり始め、発症まで増えつづけて、発症後はカーブを描いて減少に転じる。
 研究に参加した家族性アルツハイマー病患者の家族のうち、原因遺伝子を持っていないノンキャリアの人の同じ期間の脳内のアミロイドβの量はほぼ横ばいで推移。
脳脊髄液に含まれるタウの濃度
 タウは脳の神経ネットワークを構成する神経軸索の機能に必須なタンパク質で、中枢神経細胞に多量に存在する。キャリアの脳では、このタウは発症の15年前頃から脳脊髄液内で増えはじめ、発症後も増加しつづけるが、これは脳内の神経細胞が死にはじめていることを意味する。脳脊髄液(髄液)は脳の中でつくられ、脳から伸びる脊髄にも流れる無色透明の液体で、脳の神経細胞の老廃物を静脈へ運んで分解させる。
 ノンキャリアの脳脊髄液内では、同じ期間のタウの量はほぼ横ばいで推移。

 
 一方、短期記憶を蓄える海馬にもタウと同様、発症の15年ほど前から大きな変化がみられるようになります。海馬の容積が縮小しはじめ、発症の10年前頃からは記憶力の衰えがみられるようになるのです。
 

資料:寺沢宏次著「脳のしくみがわかる本」成美堂出版刊

 
 海馬は短期記憶や時間・空間学習能力に関わる脳の器官。キャリアの脳では、発症の15年ほど前から急激に小さくなりはじめ、発症後も縮小しつづける。発症の10年前頃から次第に記憶力の衰えがみられるようになり、発症後は日常生活に支障が出るようになる。
 ノンキャリアの海馬の縮小はキャリアに比べ緩やかに進行。

 
 これらの変化は原因遺伝子を持っていて実際にアルツハイマー病を発症した人たちに見られる変化ですが、遺伝子を持たない50代の人たちの脳にもアミロイドβの蓄積が見つかることから、一般的なアルツハイマー病でも、20年以上もの長い時間をかけて進行していくものと考えられています。 
 
☆研究者による多種多様な予防・治療研究
 ところで、アルツハイマー病の病変は短期記憶や時間・空間認識にかかわる海馬に始まり、徐々に言語、記憶、聴覚が 関わる側頭葉(大脳皮質の左右側面)に広がって、やがて思考や言語など高次の機能を担う中枢が局在する大脳皮質(大脳の表層)全体に及び、神経細胞の減少により脳が萎縮していきます。
 この病変に合わせて、初期症状は記憶障害が起きますが、これが単に加齢による物忘れなのか、アルツハイマー病の症状なのかは区別しにくく、この頃の脳の萎縮はMRI検査でも分からない程度です。
 やがて症状が進むと、アルツハイマー病特有の幻覚・妄想を抱くようになり、さらに進むと会話や日常生活が困難になり、次第に体が動かなくなり寝たきりになるといわれています。
 アルツハイマー病とは、初老期に始まり、記銘(記憶)力の減退、知能の低下、高等な感情の鈍麻(感覚が鈍くなる)、欲望の自制不全、気分の異常、被害妄想、関係妄想などがあって、やがて高度の認知障害に陥り、全身衰弱で死亡する。脳に広範な萎縮と特異な変性がみられる(広辞苑:()内は筆者による)
 

 
 認知症の患者数が世界中で急増しつづけているにもかかわらず、認知症の約70%を占めるアルツハイマー病の予防薬、根本的治療薬はまだ開発途上にあり、現時点でのアルツハイマー病の治療は症状を抑えて進行を遅らせる薬に頼らざるを得ない状況です。
 

 
 予防・治療法の確立は認知症の患者本人や患者の家族など介護にあたる人々だけでなく、健常者にとっても加齢などによる発症の不安を取りのぞき、さらに介護や医療費など国の財政負担の軽減にもつながって社会全体に利益をもたらすこと*から、今やもっとも深刻で急を要する研究テーマの一つとして、さまざまな角度からのアプローチにより多くの国々で取り組まれています。
*国際アルツハイマー病協会(ADI)による認知症の世界的なコストの試算によれば、2010年の世界全体の認知症コストは6040億ドルで、この金額は2010年の国別GDP(国内総生産)の世界第18位(トルコの次、インドネシアの前)に相当。
 
 アルツハイマー病の予防・治療研究の多くは、DIAN研究の成果を踏まえ、長年取り組まれてきた研究も含めて、アミロイドβ、タウ、海馬、血管が研究の標的としてクローズアップされています。
 アミロイドβは脳の神経細胞から分泌されて神経細胞の周辺に凝集して塊になると毒性を持ち、神経細胞を攻撃するようになります。すると、神経細胞内のタウ(タンパク質)が変性して神経細胞を破壊。神経細胞の数が減少することにより記憶力や判断力の低下を招くことになり、脳の容量も小さくなっていくのです。
 一般に、アミロイドβを標的とした研究には、アミロイドβの毒性を消去する方法、抗体を結合させてアミロイドβを分解・除去する方法、インスリン分解酵素(アミロイドβを分解する機能も持つ)によりアミロイドβを分解させる方法など多様ですが、ここでご紹介するのは抗体薬や除去薬の開発をはじめ、遺伝子操作の導入、生薬によるアミロイドβ産生の抑制、アミロイドβ過剰生成の原因解明、ワクチン開発の研究です。
 


           資料:NHKスペシャル取材班「アルツハイマー病を治せ!」主婦と生活社刊・日本経済新聞・日刊工業新聞・佐賀新聞
 
 一方、アルツハイマー病発症への最終段階で変性し、神経細胞を破壊するタウをターゲットにした研究がイギリスで最終段階を迎えています。タウの分解薬開発の臨床試験結果の発表は、治験終了の翌年の2016年です。
 

 
 また、通常は加齢により縮小していく高齢者の海馬の体積に注目した研究では、有酸素運動により縮小を拡大に転じる研究成果が、すでに認知症予防に高い意識を持つ人々の間で日常生活に取り入れられています。 表4のウオーキング参照
 
 さらに、血管を標的とした予防・治療研究では、DIAN研究のデータ解析により家族性アルツハイマー病の原因遺伝子を持つ人のうち、発症した人は脳内に細い血管からの、意識を失うほどではない微小な出血が多く見られ、少ない人は原因遺伝子を持ちながらも発症していないことが判明。血管の健康が発症防止につながっていることが明らかになりました。
 

 
 このほか、独自の視点から取り組まれたアルツハイマー病の予防・治療研究もあります。
 


 
☆個人でできる予防法
 以上のように次々と報道される研究成果は、人々が歳を重ねることに不安を感じることなく健やかな老後を送ることができそうだという安心感を届けてくれています。
 しかし、現実には満足のいく効果の期待できる予防薬や治療薬はまだ未開発です。先進的な人への実証研究でも、近未来に発表される結果に大きな期待がもてるとはいえ、現在は薬効があるか否か、有害な副作用がなく安全か否かを確認する治験の段階で、多くの研究ではまだ動物実験による効果が確認できた段階です。
 研究者の方々の日々の努力に期待している間も、人は歳を重ねていきます。ここでは、研究成果を待つ間にも無理なく日常生活に取り入れることができて、継続可能な個人でできる予防法をご紹介します。
 現在、軽度認知機能障害(MCI)*の人は、65歳以上のおよそ400万人に上っています(図1)。自治体によっては住民健診で認知機能の検査を実施し、軽度認知機能障害の状態にある人が認知症に進むのを防ぐために「認知症予防教室」を開催して成果を上げているところもあります。歩きながらの引き算(例:100から7を引いていく)や低い踏み台を昇降しながらの2つ遡りしりとりを声を出しながらするのですが、集団で予防のメニューに楽しく取り組めると継続しやすいうえ、参加者との会話も予防につながります。
*記憶力は低下しているが、他の認知機能障害はあらわれていないことから、日常生活には支障をきたしていない状態
 

 
・「よく噛むこと」については、昔から頭がよくなるといわれてきましたが、このほか、指を使うこと、話すこと、歩くことも脳の広範な部分を活性化して神経細胞を増やすことが知られています。
・睡眠については、習慣的な30分以内の昼寝が認知症になる確率を1/6に減らすという研究結果もあります。
 また、睡眠時間による脳内のアミロイドβの蓄積量を調べた研究によると、6時間以下の睡眠ではアミロイドβが溜まりやすいことが明らかにされています。
 

 
・また、アルツハイマー病になりやすい危険因子として糖尿病、運動不足、喫煙、中年期肥満、中年期高血圧、うつが挙げられていますが、これらを回避することにより発症のリスクを減少できることも広く知られています。
 
☆予防の基本は健全な食習慣
 アルツハイマー病患者の食習慣の特徴は、発症前からの強い偏食、過食または小食、エネルギー摂取の過剰または過少で、食生活では野菜不足、魚不足の半面、発症前から甘い菓子類が好みで糖の摂取過剰をもたらしています。
 アルツハイマー病を予防するにはDHAやEPAなどを含む青魚、抗酸化物質や葉酸を含む野菜や果物、鉄分や亜鉛を含む魚貝類や豚レバーなどを日々の食事で適度に摂る食習慣が大事です。
 

 
・そのほか、アルツハイマー病発症の予防が期待できる食物などとして、
 *カレー:クルクミン(ウコンに含まれる成分)がアミロイドβの凝集速度を遅らせる
 *ガム:よく噛むことで脳を活性化
 *緑茶:カテキンの抗酸化作用
 *ワイン:ポリフェノールの抗酸化作用
 *オリーブオイル:オレイン酸に含まれる成分オレオカンタールが、アミロイドβを脳から排除、
分解を促進することがマウスを使った実験で明らかにされています。
 オリーブオイルについてはアツルハイマー病による脳の損傷を中和する作用のほか、心臓を強くする、骨密度を上げる、血圧を下げる、コレステロール値のバランスを整える、血液をサラサラにするなどの効果も期待されています。
 
 

3.ホウレンソウをおいしく、安心して摂るために

 ホウレンソウは古くは鎌倉時代に、中国名「菠薐」(唐宋音*1で「ホリン」、「ホウレン」は「ホリン」のなまったもの)が、漢音*2「ハロウ」(「ロウ」は慣習音では「リョウ」)の読みで『本草色葉抄』(ほんぞうイロハしょう・1284年成立)の「波(ハ)部」に記載され、「五臓を利し、腸胃〈の熱〉を通じ、〈酒毒を解す〉(〈〉内は『大観本草』により補足。読み下しは参考資料(102)による)と、ホウレンソウの効能の冒頭部分が紹介されています。
 本草とは薬物として利用される植物・動物・鉱物の総称で、その効能などが書かれた「本草書」や薬物についての学問である「本草学」の意味でも用いられています。『本草色葉抄』は主に、当時の日本で本草の典拠とされていた中国の本草書『大観本草』(31巻・唐愼微撰 1108年刊)の薬名を検索するために書かれた、漢音の読みによる本草辞典です。
*1 唐宋音は日本の漢字音のうち唐音・宋音を一括した呼称。唐音は宋・元・明・清の中国音を伝えたものの総称で「行灯」をアンド ンという類。宋音は従来、唐音として一括されていた音の一部分で、実質上は唐末から元初の頃までの音。(広辞苑)
*2 漢音は、日本漢字音の一つ。唐代、長安(今の西安)地方で用いた標準的な発音を写したもの。遣唐使・留学生・音博士などによ って奈良時代・平安初期に伝来した。「行」をカウ、「日」をジツとする類。(広辞苑)

 時を経て江戸時代に入ると、ホウレンソウは野菜として栽培され食されていたことが、多くの古文書に見られるようになりました。
 三代将軍家光の時代に書かれた料理本『料理物語』寛永十三年(1636)本には「精進物の部」の食材76品目中の最後の品目としてホウレンソウが採り上げられ、すさい(酢漬けに近い酢の物)・あへもの(和え物)が、そして寛永二十年(1643)本と寛文四年(1664)本では「青物の部」に、に色(煮物の一種)・すさい、汁、あへ物が、ほうれんそう料理として紹介されています。
 また、正保二年(1645)には俳諧書『毛吹草』(けふきぐさ)に、薩摩(現在の鹿児島県の西部)の名物として鳳連草(ホウレンソウ)が、さらに肥前(一部は現在の佐賀県、一部は長崎県)では「アヘモノニ用之」という添え書き付きで鳳連草が紹介されていますが、その後もホウレンソウが自家用・販売用に栽培され、調理され、食されていた実態が、農書・地誌・料理本・本草書・文学書・幕府へ提出した諸国の産物帳の控・辞書・事典などにも記載され、今日に伝えられています。
 時が流れ明治時代になると、海外で分析化学が発達したのを背景に、まずは政府のお雇い外国人学者により1878年に『日本食物の分析表』が公表され、その後、次々と健康を左右する日常の食物成分が分析されるようになりました。そして大正時代の終わり頃には食物の栄養に人々の関心が集まり、ホウレンソウは栄養価の高い野菜として注目されるようになったのです。当時、すでに東京へ出荷していた千葉県の「県農会報」(1922年)には「ホウレンソウは『ビタミン甲A』が植物性のものでは最も多い部類に属し『ビタミン丙C』も豊富である」と書かれています。
 注目の葉酸は1941年にアメリカでホウレンソウの葉から発見され、ラテン語のfolium(葉)からfolicacid(葉酸)と命名されたビタミンです。
 戦後になると、現在の『日本食品標準成分表』の原版である『日本標準食品成分表』(1951年)が公表され、食生活の安定にともない再び栄養に対する関心が高まり、ホウレンソウはビタミンA、B、C、カルシウム、鉄分に富む野菜として需要が拡大していきました。そして、その後も分析技術の発達にともない、フィトケミカルなど健康を支える多くの成分が新たに発見されつづけ、現在に至っています。
 しかし、その一方で、ホウレンソウに含まれるシュウ酸の問題が取り沙汰されたり、一部の産地のダイオキシン汚染が社会を騒がせたり、さらに1997年にはEUでレタスとホウレンソウの硝酸イオン基準値が設定されたことから、ホウレンソウに含まれる硝酸も消費者の不安を煽ることになりました。
 ここでは、硝酸、シュウ酸への対応も考慮しながら、ホウレンソウに含まれる豊富な栄養成分を安心しておいしく摂取する調理法を考えたいと思います。
 
@ホウレンソウは栄養の宝庫
 テレビの健康番組では、「焼き海苔には葉酸がホウレンソウの*倍も入っています」とか「小豆の餡が詰まったタイ焼きを食べると、ホウレンソウの*倍の鉄分が摂れます」など、ホウレンソウを基準にして食品の栄養素の含有量が紹介されることがあります。
 ホウレンソウは昔から、「栄養の宝庫」、「緑黄色野菜の王様」などといわれてきた野菜で、庶民の食生活には欠かせない存在となっていますが、そのためでしょうか、食品の栄養素含有量の物差しとしても利用されているようです。
 

 
ホウレンソウには次のような成分も含まれています。

 

 
★以上の他、有害成分の硝酸、シュウ酸(有機酸)も含有。
 
A 気になる成分、硝酸・シュウ酸・アスコルビン酸(ビタミンC)
 ホウレンソウは豊富な健康成分に恵まれた野菜ですが、葉物に多い硝酸や、野菜の中でも特に多く含まれるシュウ酸が気になる野菜でもあります。
 そこで、安心して調理に取り組めるよう、まずは硝酸、シュウ酸と、これら両成分に関係するアスコルビン酸(ビタミンC)についての情報をお届けします。
 
A.無味、無臭、無色透明の硝酸

 
★ホウレンソウの好きな硝酸
 主な窒素肥料のうち、稲やお茶はアンモニア態窒素(アンモニアに含まれている窒素)でよく育ち、トマト、キャベツ、大根、白菜、ホウレンソウ、キュウリ、ジャガイモなど多くの野菜は硝酸態窒素でよく生育します。特にこれらの内トマトをはじめとする5品目は硝酸大好き野菜です。
 トマトやキュウリとちがって、ホウレンソウなどの葉もの野菜は花や果実をつくる前の段階で、体をつくるために、硝酸をどんどん吸収している最中に収獲される野菜です。
 ホウレンソウの場合、根から吸収した硝酸は、葉に運ばれて、日照(エネルギー)やモリブデン(ミネラル)に助けられた酵素の働きにより、硝酸→亜硝酸→ヒドロキシルアミン→アンモニア→アミノ酸→タンパク質・核酸などに合成されていくのですが、特に硝酸を根から葉に運ぶ通り道の葉柄や硝酸還元活性の低い中肋(ちゅうろく:葉の中央を縦に通っている太い葉脈)には吸収したままの硝酸が多量に残った状態で収獲されてしまいます。
 ホウレンソウの硝酸含量は畑での硝酸態窒素施用量が多いほど多くなることが知られていますが、季節変動も大きく、ホウレンソウの場合、夏季には冬季の倍以上の硝酸が含まれています。(63)
 しかし、硝酸は無味、無臭、無色透明なため、水や野菜などの食品に含まれていても気づくことはなく、葉の緑色の濃さ(葉色の濃度は品種による)にも影響しないため、見た目や味では含有の有無や多少が判断できない成分です。
 だからといってホウレンソウの畑にアンモニア態窒素だけを施用しても、土の中に生息する微生物がアンモニアを亜硝酸に、さらに硝酸に酸化しますので、ホウレンソウはアンモニアも吸収するとはいえ、好んで硝酸を吸収します。しかし、それでは十分な硝酸を得られないうえ、トマトなどと同様に耐アンモニア性の弱いホウレンソウは、アンモニア態窒素だけを施した畑では生育が著しく抑制されるため商品にはなりません。
 野菜に含まれる硝酸を低減する研究は、国の取り組みとして進められ「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」にまとめられています。(72)
 一方、ホウレンソウの体内では硝酸がアンモニアに還元されるのにともなって、糖が減少していくことが知られています。硝酸の還元に必要な水素は呼吸により糖を分解して供給されているのです。(97) 一般に、硝酸含有量の少ないホウレンソウは糖の含有量が多いことも知られています。
 ホウレンソウの糖含量が増える要因は、このほかいくつか指摘されていますが、その一つが土壌の乾燥による水ストレスです。ホウレンソウは体内の水分含量が低下していくとデンプンが分解したり、呼吸の低下によりブドウ糖などの糖の代謝が阻害されて糖含量が徐々に増えていきます。(94)
 こうして体液の濃度が濃くなることで、土壌の水を吸収することができるようになるのですが、これは濃度の違う水溶液が隣り合っているときに、水は濃度の薄い方から濃い方へ移動するという性質があるためで、施肥量が多すぎる時にメロンなどが脱水状態になるのと同じ原理です。
 この現象は土壌が乾燥したときに植物がとるサバイバルのための吸水の方策で、真夏でも、からからに乾いた土壌で収穫したホウレンソウは砂糖をまぶしたように甘くなっています。ただし、これは収穫後すぐに調理できる家庭菜園ならではの利点で、特に気温の高い夏場はホウレンソウの呼吸量も多いことから、呼吸による糖の消耗により収穫後の時間の経過とともに糖含量はどんどん減少していきます。
 

 
 サバイバルのために糖含量を増やすもう一つの方策は、氷点下で凍結しても生存できる耐凍性の獲得です。真冬が旬のホウレンソウは、秋から冬にかけて気温が低下するのにともなって根の吸水を抑制し、徐々に糖などの成分を蓄積して耐凍性を備えていきます。一般に、糖の増加により植物細胞の氷点は3〜4℃低くなることが知られていますが、耐凍性を獲得したホウレンソウはキャベツと同様、ー15℃での凍結にも耐えられることが確認されています。(96) 
 耐凍性を獲得したホウレンソウが氷点下の露地で冷やされると、細胞内の水は細胞の外に出て凍り細胞の間隙を氷で埋め尽くすため、葉色が黒ずんだ緑色になります。そして昼間、気温が高くなるにつれて氷は徐々に融解して細胞内に戻り、元の姿、葉色に戻ります。
 細胞内の水が細胞外へ出て凍結すると、細胞は脱水・乾燥により収縮して膜脂質や膜たんぱく質の変性などの障害が発生しますが、糖はこのような凍結による傷害から細胞を保護する作用があるのです。(95) 糖は凍結に耐えるためには不可欠の成分で、糖度と耐凍性には高い相関があることも明らかにされています。(98)
 家庭菜園で秋に播いたホウレンソウは、春になると土壌の硝酸が枯渇して葉が黄ばみ始めますが、黄ばむ直前に収穫したホウレンソウは硝酸が少なく、また春の到来とともに耐凍性が失われていくとはいえ真冬の糖の蓄積の残りもあって、驚くほど甘味が増しています。
 

 
★懸念される硝酸の毒性
 硝酸は野菜にとっては生育に不可欠な栄養源で、食品添加物とは異なり野菜には元々含まれている成分です。しかし、人体にとっては栄養源にならないばかりか有害成分で、特に亜硝酸に変化すると少量で毒性を発揮するため、水質基準・環境基準(硝酸と亜硝酸の和として10mg/リットル)やハムなどの食品添加物(発色剤・発酵調整剤)としての亜硝酸ナトリウムなどの使用基準(使用量上限値など)が定められています。
 欧州食品安全機関(EFSA)によると、人の硝酸イオンの経口致死量(死亡事例)は約330mg/kg体重で、これは体重50kgの人の場合、約16500mg(16.5g)に相当します。(62)
 日本では人での中毒の報告はほとんどありませんが、1965〜71年に牧草など肥料作物に含まれる硝酸により458頭の牛に中毒が発生し128頭が死亡しました。近年でも2007年に輸入乾牧草による中毒事件により8頭の牛が死亡しています。(62)
 一方で、人への硝酸カリウム25〜170mgを1回経口投与した試験によると、65〜70%が尿中へ排出され、排出は5時間後に最大となり、18時間以内には投与前の状態(10〜20mg/リットル)に戻っています。(63)
 

 
 過去に硝酸の被害を数多く経験したヨーロッパでは、日常的に摂取量の多いレタスやホウレンソウなどの硝酸イオン基準値を設定し、基準値を超えた野菜は市場に出荷できない仕組みになっています。
 硝酸は食品の放置や腐敗過程でも亜硝酸に還元されますが、体内では摂取した硝酸の5〜7%程度が口内や消化管内の微生物により亜硝酸に還元されます。亜硝酸は血液に入ると、酸素の代わりに血中のヘモグロビンと結合して、酸素の運搬機能のないメトヘモグロビンにしてしまい、この濃度が10%を超えると酸素供給が不足してチアノーゼ症状を呈するメトヘモグロビン血症になります。(亜硝酸塩の血漿中での半減期は約30分) (62)
 胃液の酸度が高い大人とは異なり、酸度の低い(pH5〜7)生後3か月未満の乳児の胃の中では微生物が繁殖、活動できるため、硝酸が亜硝酸に還元されてメトヘモグロビン血症を発症しやすいのです。
 戦後の欧米では硝酸濃度の高い飲料水により約2000例のメトヘモグロビン血症が発生し、そのうちの約8%が死亡して社会問題になりました。日本では稀ですが、1996年に高濃度の硝酸に汚染された井戸水による新生児の罹患が報告されています。(62)
 また、かつて離乳食を生後3か月未満(日本では生後5、6か月からが多い)で始めることもあったドイツでは、1959年からの7年間にホウレンソウの硝酸によっても、乳児のメトヘモグロビン血症が16症例(うち2例は死亡)発生しています。(63) 当時のホウレンソウの調理法についての情報は得られていません。
 

 
★硝酸のリスクと便益
 日本では硝酸について、食品添加物としてチーズ、清酒、ハムなど食肉製品、鯨肉ベーコンに対する使用基準や飲料水中の基準値は定められていますが、野菜などの食品に天然由来で含まれる硝酸塩についての基準値は設定されていません。
 「硝酸塩はそもそも野菜中の成分として含まれており、通常の食生活において野菜中の硝酸塩が人体に有害な作用を引き起こすことはないと考えられます。一方で、ヒトの体内で還元され亜硝酸塩に変化すると、メトヘモグロビン血症や発がん物質であるニトロソ化合物の生成に関与するおそれがあるということが一部で指摘されています。
 野菜の成分中にある硝酸塩により、人における硝酸塩の吸収や代謝が影響を受ける可能性があります。しかし、野菜には有効成分が多く、食品として有用であることはよく知られています。」(63)
 また、欧州食品安全機関(EFSA)は、本来的に野菜に含まれる硝酸の体内への取り込みについて、リスクと便益とを比較し、全体として推定される野菜からの硝酸摂取量では明らかな健康リスクとはなりそうにないため、野菜を食べることによる有益な影響の方が勝っているとしています。ただし、食事の大部分が野菜であったり、硝酸を多く含む野菜を生でたくさん食べる人など、ケースバイケースで評価が必要な状況があることも指摘しています。(63)
 野菜には有効成分が多く、昔から人々の健康を支えてきたことは周知のとおりです。
 
★調理で野菜の硝酸を減らす法

 
 硝酸は水にきわめて溶けやすい成分です。したがって、茹でることにより硝酸の摂取を減らすことができ、葉物野菜で約30〜45%の硝酸イオンを除去できることが「硝酸イオン低減化プロジェクト」の取り組みで明らかにされています。なお、野菜は茹でることにより硝酸とともに水溶性ののビタミン類など栄養素も減少します。
 

 
 欧州食品安全機関(EFSA)は、野菜の硝酸低減策として、次のような報告を公表しています。
・ホウレンソウやレタスについて、葉の中央にある太い葉脈や茎を除去することにより、硝酸塩濃度が30〜40%減少した。
・葉菜類や根菜類について、茹でることにより、硝酸塩濃度が16〜79%減少した。
・硝酸塩は水溶性のため、葉菜類を水洗いすることにより、硝酸塩濃度が10〜15%減少した。
 

 
 市販の冷凍ホウレンソウの場合、日本の食文化では葉柄(茎と表現する人もいる)の食感も大事にするため(もちろん採算も考慮)、冷凍パックの中身は草丈50cmほどにまで育てたホウレンソウの太い葉柄が目立ちます。
 一方、ヨーロッパの冷凍用ホウレンソウは硝酸含有量を低く抑えるため、品種選びから栽培に至るまで、硝酸が残留しやすい葉柄や中肋を細く仕上げることに留意しています。そのため、食卓に上った冷凍ホウレンソウはとても柔らかく、くたくたです。
 
B.カルシウムと結合しやすいシュウ酸
 ホウレンソウで気になる、もう一つの成分は有機酸のシュウ酸です。シュウ酸は植物にとっても人にとっても最終代謝産物ですが、植物にとっては利用価値のある成分、そして人にとっては有害成分で、ミネラル(カルシウムや鉄など)と容易に結合して不溶性のシュウ酸塩の結晶をつくります。
 
★植物界では利用価値のあるシュウ酸

 
 シュウ酸は多くの植物に含まれていますが、身近な植物ではベゴニア、シュウカイドウ、雑草のカタバミ、ギシギシなどがシュウ酸の多いことで知られています。
 

 
 また、多くの農産物にも、水溶性シュウ酸(人にとって有害)やカルシウムと結合した不溶性のシュウ酸の形で含まれていますが、水溶性シュウ酸の多い野菜のうち身近なものではふだんそう、ホウレンソウ、つるむらさき、にがうり、タケノコ、ミョウガやショウガなどが挙げられます。
 また、ココアの粉末、緑茶葉、コーヒーの粉末の含有量も多く、煎茶や紅茶は茶葉ほど多くはないのですが、1日の摂取頻度が高い場合は1日の摂取量も多くなります。
 

 
 植物体内のシュウ酸は、最終代謝産物(一部は酸化分解してギ酸になったり炭酸ガスになったりする)としてグリオキシル酸やアスコルビン酸から生成される成分です。植物体内では不溶性のシュウ酸カルシウムの結晶を形成したり、水溶性のシュウ酸カリウムとなって存在しています。
 シュウ酸カルシウム結晶の形は植物の種類によりさまざまで、正八面体、ピラミッド、プリズム、菱形、球形、塊状、針状などが観察されています。 
 植物界でのシュウ酸は、
@根から吸収した過剰なカルシウムをシュウ酸カルシウムの形で貯蔵する
A細胞外骨格の構成成分として、シュウ酸カルシウム結晶を利用する
B草食動物に食べられにくくするための”しぶ味・えぐ味”としてシュウ酸を利用する
などの重要な役目を果たしているともいわれています。(66)
 
★ホウレンソウのシュウ酸

 
 前述した硝酸は人にとっては有害ですがホウレンソウには不可欠な栄養源でした。シュウ酸もまた、人には有害ですが、硝酸が代謝してホウレンソウが生育していくときに、リンゴ酸とともに細胞を中性に維持するという重要な働きをしています。
 このシュウ酸は、硝酸とは異なりホウレンソウの体内で生成されますが、その生成ルートの一つがアスコルビン酸の代謝によるものです。アスコルビン酸は、植物体内で生成される活性酸素(過酸化水素)を自らが酸化されることにより消去するなど、細胞成分が酸化され破壊されるのを防御しますが、すぐに酵素により蘇って還元型アスコルビン酸になります。そして、やがて代謝してシュウ酸になると、グリオキシル酸から生成したシュウ酸とともに再び細胞を守るために働くのです。シュウ酸は重量でアスコルビン酸の10倍も集積することが知られています。(71)
 ホウレンソウの生育過程で、硝酸がアンモニアに代謝していくとき水酸化物イオン(OH‐)が放出されるが、これを中和して細胞のアルカリ化を防ぐ働きをするのがシュウ酸とリンゴ酸で、ホウレンソウではシュウ酸が主。これによりイオン化したシュウ酸は、カルシウム(硝酸とバランスしていたが硝酸の消費で過剰になった)と結合してシュウ酸カルシウムの結晶をつくって液胞に沈殿したり、またカリウム(同様に過剰になった)と水溶性のシュウ酸カリウムを生成。この水溶性のシュウ酸カリウムが人に害をもたらすことに。ホウレンソウは水溶性のシュウ酸が多く、カリウム含有量が非常に多いが、カルシウムは少ない。(71)
 

資料:農研機構研究成果情報「ホウレンソウ葉表面に観察される白色顆粒」

 畑では、生育中のホウレンソウの葉に白い粉が吹いているように見えることがあります。この粉のようなものは束ホウレンソウの場合は収穫後、水洗により除去されますが、指などで触れるだけで簡単に落ちることから、袋詰め(FG)の荷姿で出荷されると袋の底にこぼれ落ちて溜まり、農薬か昆虫の卵ではないかという消費者からの問い合わせに生産者を戸惑わせたこともありました。
 この粉のようなものは、ホウレンソウの品種や病害虫に関わりなく発生し、特に若い葉に高密度で観察されますが、実態はホウレンソウの葉表面から筒状の構造でつながった半透性、脂溶性の膜がシュウ酸など有機酸の水溶液(水分90%程度)を包んで風船のように膨らんだ白色顆粒です。
 この白色顆粒の生成メカニズムや植物生理学的な意義についてはまだ解明されていませんが、簡単に除去できることから、この生理作用によりシュウ酸が少しでも葉の外に排泄されて含有量が減ることは大歓迎です。(90)
 
★カルシウムが消すシュウ酸味

 
 「茹で汁に牛乳を入れて飲んでごらんなさい」
 ホウレンソウ研究者の方からのお勧めで、恐る恐る、茹で汁をカップにとり、牛乳の代わりに使っていた粉ミルク(牛乳が主原料)を入れて、びっくり。不快なえぐみがすっかり消えて、茹で汁は旨みたっぷりのおいしいホウレンソウ味のホットドリンクに変質していたのです。
 茹で汁の中にシュウ酸と一緒に溶け出したホウレンソウの旨み成分(グルタミン酸)や水溶性のビタミン類などもわずかながら摂ることができました。
 シュウ酸はカルシウムと簡単に結合し、不溶性のシュウ酸カルシウムになる。このことはホウレンソウの濃いめの煮汁に、硬度の高いミネラルウオーターを加えると白濁することでも確認できる。シュウ酸は無色の結晶で水に溶けるが、シュウ酸カルシウムの結晶は白色で水に溶けないため、水中で白い沈殿をつくる。
 唾液にはカルシウムが、ホウレンソウにはシュウ酸が含まれているので、ホウレンソウを食べると両者が結合して微細なシュウ酸カルシウムの結晶になり、口の中を刺激して後を引く不快味を感じさせる。この感覚がえぐみ
 ところが、ホウレンソウのゆで汁にカルシウムの多いミルクを加えると、シュウ酸カルシウムの結晶を生成した後、それらが凝集するなどして塊になるため、飲んだ時には口中を刺激することはなく、したがってえぐみを感じない。

 
★ホウレンソウの苦味はえぐみではない
 「ホウレンソウにはシュウ酸が含まれているので、食べるとえぐみがある」
これは、ホウレンソウについて、長年、常識として言われてきた言葉です。そして同じように不快を覚える人の多いホウレンソウの苦味も、日常的に味わうことの稀なえぐみと混同されてきました。
 ところが、2006年、シュウ酸によるえぐみシュウ酸味(シュウ酸塩を口に含むことによって後に残る違和感《不快な後味》)と定義して苦味と区別し、えぐみとシュウ酸の関係について化学的な分析が行われ、この常識を覆す結果の発表がありました。これまでえぐみと一緒くたにされていた苦味が、実は、シュウ酸とは異なる成分によるものだというのです。
 またえぐみは、濃度が高くなるほど刺激が強くなる化学的な感覚ではなく、前述のようにシュウ酸イオンが口腔内に入ったときに、唾液中のカルシウムイオンとの間で生成するシュウ酸カルシウムの微細な結晶による物理的刺激、ということも明らかにされました。
 さらに、えぐみがホウレンソウに含まれるクエン酸によって抑えられることも証明されたのです。クエン酸はカルシウムとキレート結合することによりシュウ酸カルシウムの生成を阻害します。そのためホウレンソウの生葉はシュウ酸濃度が762.8mg/100gと高いのにクエン酸濃度も比較的高い(試験では66.3mg/100g)ため、クエン酸が唾液のカルシウムを捕え、シュウ酸カルシウムの生成を防いでえぐみをほとんど感じさせず、また茹でたホウレンソウ(抽出液)は弱く感じる程度という結果でした。
 一方、茹で汁はシュウ酸濃度が茹でたホウレンソウの1/2以下ですが、クエン酸濃度も低いためシュウ酸は唾液に含まれるカルシウムとシュウ酸カルシウムを生成して強いえぐみを感じさせたと考えられています。
 それでは、苦味を感じさせる成分は何でしょうか。試験では、苦味成分の性質は、シュウ酸とは異なり、濃度が高くなるほど味細胞への刺激が強くなる化学的感覚と推定しています。(33)

 
 
 ホウレンソウはコマツナや春菊などの葉ものの中で、多量ミネラルのカリウムを最も多く含んでいます。このカリウムは、従来から知られている苦味を呈するアクの一種です。
 また、フラボノイドも苦味成分の一つで、ホウレンソウのフラボノイドとしては、パツレチン、スピナセチンが知られていますが、このほか数種類の成分も含めて、カットされたばかりのホウレンソウの葉には、フラボノイドが約1000mg/kg含まれていると見積もられ(45)、ホウレンソウの強い抗酸化力の源となっていると考えられます。
 カリウムもフラボノイドも水溶性ですので、茹でることでシュウ酸や硝酸とともに減少します。
 
B食品のシュウ酸対策は直面する課題 (この項でのシュウ酸は水溶性を指す)
★人にとっては不要、有害な最終代謝産物
 シュウ酸は人の体内でもホウレンソウと同様、アスコルビン酸とグリオキシル酸から生成される最終代謝産物です。この内因性のシュウ酸は人とっては不要、有害な成分であることから尿中に排泄されますが、アスコルビン酸の代謝によるシュウ酸の尿中排泄量は、アスコルビン酸の摂取量が100mg/日以下の場合は50mg/日といわれています。しかし、1日10g(10000mg)の多量摂取の場合の尿中排泄量は30mg/日に低下し、未代謝のアスコルビン酸が尿や糞便中に排泄されます。(77)
 人の体内でのアスコルビン酸については、100〜200mg/日の摂取によって血漿中のアスコルビン酸濃度は飽和量(1.4mg/100ml)に達して体内プール量は2.3〜2.8gとなり、体内プール量が1.5g(1500mg)を超えると尿中排泄量が増える(排泄は約80mg/日の摂取量で起こる《61》)。
 アスコルビン酸の血漿中での半減期は13〜40日。また、代謝回転は約60mg/日で個人により一定の値を示すが、喫煙、ストレス、慢性疾患、糖尿病などにより速まり、喫煙者の代謝回転速度は100mg/日となって体内プール量も減少する。(77)
 また、壊血病の予防の他、抗酸化と心臓血管系の予防が期待できる血漿濃度を50%の人が維持するための摂取量は約83mg/日(61)で、「日本人の食事摂取基準2015」では15歳以上の男女とも、ビタミンCの推奨量は100mg/日。


 
 
 一方、食物の摂取により体内に入ったシュウ酸は外因性のシュウ酸と呼ばれ、腸管内でカルシウムや鉄などのミネラルと結合してミネラルの吸収を妨げることが問題となっています。(81)
 また、シュウ酸は小腸から吸収されて腎臓に運ばれ尿中に排泄されますが、シュウ酸を多量に摂取したり水分摂取が長時間ないことで尿が淀むと、尿中のシュウ酸やカルシウムが過飽和状態になり、シュウ酸カルシウムの結晶を析出させて結石症が発症しやすくなります。そのため、尿路結石症は夜間に多く発症することが知られています。
 シュウ酸やカルシウムが過飽和状態の尿中では、シュウ酸カルシウムの結晶が形成され、その一方で、シュウ酸が尿細管の細胞を傷害し、結晶を接着。結晶は細胞内に取り込まれて成長し細胞を死滅させ、死滅した細胞は尿中へ脱落して結晶を凝集させ結石へと成長させる。
(ビタミンE、クエン酸、緑茶のカテキンなどが細胞障害や酸化ストレスを抑制する効果があるとされている)。 (89)

 尿中のカルシウムは水分や尿酸、クエン酸、マグネシウムなどのように再吸収されますが、シュウ酸は再吸収されることはありません。にもかかわらず、尿中でのシュウ酸はカルシウムに比べて濃度が圧倒的に低いため、シュウ酸濃度の上昇は軽度であっても、同程度のカルシウムの上昇に比較するとシュウ酸カルシウム飽和度に及ぼす影響がはるかに大きいことから、シュウ酸の尿中排泄は結石発生のリスクを高めます。(78)量的には、食事から摂るシュウ酸が180mg/日を超えると、尿中へのシュウ酸排泄量は急速に増加することが知られています。(79)
 シュウ酸は量の多少はあるものの、日常的に摂取する多くの食品に含まれています。食品にはそれぞれ特有の健康効果を持つ成分も含まれていることから、シュウ酸摂取を恐れるあまり、貴重な健康成分も摂取しないというのは大きな損失です。
 偏った風評をなくし消費者が安心して身近な食品を摂ることができるよう、生産、加工、流通、消費の段階でさまざまな工夫を凝らしたシュウ酸対策を講ずることが望まれます。
 
★シュウ酸の結石リスクを抑えるカルシウム

 
 ホウレンソウを茹でたお浸しといえば、鰹節のトッピングがつきもの。そして、これは「お浸しのえぐみを消したり、鰹節の旨み(イノシン酸)で、おいしさを増すため」と思われてきました。しかし、医療現場では尿路結石症予防策として捉えられていたのです。
 尿路結石症患者は後述するように、戦後の食生活の欧米化や運動不足のなどの生活習慣にともなって増えつづけ、今や生涯で男性は7人に1人が、女性は15人に1人(2005年)が突然、激痛に襲われるという病気です。そして尿路結石全体の90%以上を占めるカルシウム含有結石のうちの大部分がシュウ酸カルシウム結石であることから、この予防策の一つとしてシュウ酸含有量の高いホウレンソウは、まず茹でてシュウ酸の量を減らすこと、そして鰹節、チリメンジャコ、牛乳などカルシウムの多い食材と一緒に調理することが推奨されています。これにより、ホウレンソウがよりおいしくなるだけでなく、カルシウムと一緒に摂ることで腸管内でシュウ酸カルシウムの結晶を形成させてカルシウムの吸収を阻害する反面、シュウ酸の吸収も妨げ、尿路結石のリスクを抑えることができるとされています。
 しかし、カルシウムは人の健康維持に重要な働きをするミネラルのなかでも多量に必要とされる成分であることから、シュウ酸を捕えて腸管から吸収させないようにする働きに加え、カルシウム本来の働きのための必要量も確保、吸収させるメニューや食べ合わせが必要で、医療現場ではそのためのカルシウム摂取量として600〜800mg/日が推奨されています。
 不要な最終代謝産物のシュウ酸は小腸からイオンで吸収され、腎臓に運ばれて尿中へ排出。
 後述する尿路結石症の予防ファクターの表にあるように、小腸ではシュウ酸がカルシウムと結合して吸収を妨げられることで尿中への排泄量を抑えることができるほか、マグネシウムによっても吸収が抑えられる。また、クエン酸がカルシウムと結合してしまい、その結果、シュウ酸が吸収されて尿中に排泄されることになるなど、シュウ酸の吸収は腸管内の環境に大きく影響される(クエン酸は尿中ではカルシウムと結合するとシュウ酸カルシウム結石の生成を抑制。)
 したがって、単純に小腸でシュウ酸とカルシウムが結合するために必要な両成分の量の比率を計算したとしても、このような腸内環境を考慮に入れると計算した数値は必ずしも実態に沿うわけではない。

 
★草丈と鮮度で決まるシュウ酸含有量

 上表は品種別の区画でそれぞれホウレンソウを播種し、草丈が10cm前後のベビーリーフに育った2月16日、それから1週間後の2月23日、さらに3月1日と3月13日に各区画内で生育中のホウレンソウを収穫してホウレンソウ100g中に含まれるビタミンCと水溶性シュウ酸量(mg)を測定した結果を示している。
 
 生育ステージとシュウ酸含有量との関係について調べた試験によると、ホウレンソウは品種を問わず、生育ステージが進むにつれてビタミンCが減少し、水溶性シュウ酸含有量も減少します。
 この分析結果は、一般サイズのホウレンソウに比べてサラダ用のベビーリーフの方が、同じ100gならシュウ酸含有量が多いことを示しています。
 某企業研究室でハウス栽培のホウレンソウの内部成分を分析してもらっている農家では、この試験結果と同じ傾向の分析結果が得られていることから、おいしさをキャッチコピーにして30cm以上の草丈で出荷し好評を得ています。
 なお、硝酸は葉身より葉柄に多く含まれていますが、シュウ酸は反対にアスコルビン酸やグリオキシル酸の代謝が盛んな葉身での含有量が多く、葉柄の含有量は葉身の3分の1程度です。(75)(87)
 ところで、某企業研究室が分析した未公開データによると、夏どりホウレンソウを収穫翌日から11日間、また秋どりホウレンソウを12日間、それぞれ冷蔵庫の野菜室に立てた状態で貯蔵した結果、硝酸はそれぞれ12.6%、37.5%減少し、ビタミンCも68.0%、19.5%減少して、水溶性シュウ酸はそれぞれ33.4%、7.5%増加しています。(水分はそれぞれ1.6%、1.9%減)
 また、「栄養性、嗜好性を含む多次元解析による野菜の品質評価指標の構築」の研究ではホウレンソウは「貯蔵によるスクロースの減少、シュウ酸やリンゴ酸などの増加が品質低下の一因と考えられた。」(https://kaken.nii.ac.jp/d/p/09480001/1997/3/ja.en.html)とあります。
 一方で、「流通過程とシュウ酸含量の消長」を調べた研究では、48時間「室温20℃に置いたものは経時的にシュウ酸含量の低下が認められたが、冷蔵(2℃)したものではほとんど変化はみられなかった。」という報告もあります。(69)
 鮮度とシュウ酸含有量の関係はシュウ酸の摂取をできるだけ低減するために必要な情報であることから、十分な追試が求められます。
 
★個人でできるシュウ酸対策
 以上のように、ホウレンソウのシュウ酸含有量は草丈や鮮度により影響され、また調理法により人の体内への吸収を抑えることができるとされています。
 また、煎茶や紅茶など日常、摂取頻度の高い飲料や高濃度のシュウ酸を含む抹茶などは、摂り方でリスクを抑えるよう勧められています。
 お茶はシュウ酸が気になる一方で、含まれるカテキンは結石の予防効果が認められているのに加え、葉酸が動脈硬化を予防するなど多くの健康効果のあることが知られています。同様に、野菜などシュウ酸を含む食品も健康に不可欠な成分が豊富に含まれていることは前述の通りです。ほんのちょっと工夫して、栄養豊富な食品をおいしく安心して摂ることを心がけたいものです。
A.シュウ酸の多い葉物野菜は草丈の長い、鮮度の良いものを選ぶ
 ホウレンソウの草丈については通常のサイズより草丈の長いものを選ぶことでシュウ酸含量が比較的少ないものが入手できます。また、ホウレンソウは新鮮なものほどシュウ酸に代謝される前のビタミンCが多く含まれており、これは同じ葉物野菜であれば同様の傾向があると考えられます。
B. 調理法については、ホウレンソウのようにゆでることのできる野菜は果菜類、根菜類を問わず先ずは茹でることで硝酸と同様、シュウ酸も減らすことができる(「2〜3分のゆでこぼしによりシュウ酸は30〜50%溶出される」)(69)
 シュウ酸含有量の少ない野菜は茹でずにカルシウムの多い食材と一緒に調理することもできますが、たとえばホウレンソウの場合、昔より減少しているとはいえ、消費者には購入するホウレンソウのシュウ酸含有量を知るすべは現時点ではないのです。
 ゆで方は前述した硝酸の項の「★調理で野菜の硝酸を減らす法 」にあるほか、次のような情報も公開されています。
ホウレンソウの茹で方 その1
  1. 鍋にお湯を沸騰させる(ホウレンソウ100グラムに対し、水1リットル)。
  2.ホウレンソウをたてにして、茎だけを入れて5秒、葉を入れて10〜20秒ゆでる。
  3. すぐに流水で2度ほど洗う。
  (少なめのお湯の方がビタミンCやカリウムなどの成分は多く残る。シュウ酸はたっぷりの湯の方が減るが、それほど差はない。お湯を沸かす時間も減るばかりか、ガス代や二酸化炭素の量も減らせる。)
             資料:http://www9.nhk.or.jp/gatten/recipes/R20080604_32.html
ホウレンソウの茹で方 その2
  ・ホウレンソウを5倍量の熱湯で2.5分間ゆでると、シュウ酸含有量は40〜80%減少した。(硝酸は30〜80%の減少:蒸留水を使用した試験です) 
  ・ゆでる水の量がほうれんそうの3倍以下と少ない場合や、ゆで時間が2分以下と短い場合はシュウ酸の残存量も多くなる。(87)
C.カルシウムの多い食材と一緒に調理
 カルシウムはシュウ酸対策のほか、カルシウム本来の機能を果たすためにも十分に摂取したいミネラルです。カルシウムの多い食材には次のような食品や調味料、香辛料もあります。

 
 
D.摂り方の工夫でもシュウ酸の吸収を抑えることができる
・紅茶はミルクティーで、抹茶、緑茶、ストレートティーなどの場合は、空腹時を避け、まずカルシウムの多いお茶請けを摂ってから。
 長野県の佐久地方では昔から野沢菜の塩漬けをお茶請けにして頻繁にお茶を飲む習慣がありますが、野沢菜の塩漬けにはカルシウムもカリウム(高血圧予防など)も多く含まれています。
・チョコレートは比較的カルシウム含量の多いホワイトチョコレートやミルクチョコレートを。
・食品成分表による100g当たりカルシウム含量の多いお菓子などには次のようなものもあります。

 
 
★生産、加工、流通段階でもシュウ酸低減対策を
 シュウ酸は一般には食材のアクとして理解され、茹でることで不快なえぐみや苦味を除去するものと捉えられています。
 シュウ酸がカルシウムや鉄などミネラルの吸収を妨げるといっても、不足による自覚症状がすぐに現れるわけではないので消費者には実感がなく、また家族など身近で結石症患者が出たのを契機にシュウ酸の多い食材に注意を向けるようになっても、食材のシュウ酸含量について十分な情報を得ることは難しいのが現状です。
 そこで、先ずは消費者の手元に届く前に、生産、加工、流通の段階で、シュウ酸低減のための方策の開発、実施が求められます。次のような対策案を考えてみました。
A.ホウレンソウなどシュウ酸濃度の高い農産物は出荷団体による自主的な基準値の設定を。
 地域の栽培環境に適した低シュウ酸濃度の栽培法を確立(草丈の規格の見直しも含める)→生産現場への普及→出荷団体のシュウ酸測定機器導入により、収穫適期のサンプル測定→基準値を超える場合は基準値以内になるまで栽培→出荷団体へ出荷・濃度検査→基準値以内の荷のみ市場へ出荷
・前述したようにホウレンソウは生育ステージが進むほどシュウ酸含量が減少します。生産者が出荷できないという損失を受けることがないよう、出荷前にサンプルで含有量の測定が必要です。
・草丈の出荷規格を高く設定すれば、高品質(低シュウ酸含量)で高収量になるため、生産者、消費者ともにメリットを受けることができます。
・消費者の便宜を図り、出荷する商品には基準値表示を。(当初は基準値を超えたものも、基準値表示なしの低価格で出荷せざるを得ないかも知れません)。
・市販のホウレンソウのシュウ酸含量の研究(87)によると、測定したサンプル100g当たりのシュウ酸含有量は産地により春ホウレンソウで620〜210mg、ほぼ3倍の幅があります。生産者の低濃度栽培法のノウハウを広く普及させる方策が求められます。
B.お茶など、加工品となる農産物収穫時のシュウ酸含量低減策の開発・実施を。
 お茶の生産地では高級茶生産志向があり、茶特有の旨み成分テアニン(過剰に吸収された窒素の貯蔵形態と考えられている)の含量が多いほど高品質とされ(91)、テアニンを増やすための栽培法として黒い資材で被覆した収穫前の茶畑をよく見かけます。
 高濃度のシュウ酸含量が明らかになった近年では、「低シュウ酸含量」も高級茶、高品質の条件の一つですので、研究所や業界の積極的な意識改革と、低減策の開発、普及が求められます。
C.農産物の加工品は加工の段階でシュウ酸を無害にする方策(添加物など)の開発・実施を。
 お茶などの加工品の味や香りを損ねないことが条件です。
D.食品成分表にシュウ酸含量の記載をmg単位で。
・摂取する食事全体のシュウ酸含量が分かり、医療現場での食事指導はもちろん、一般家庭でもカルシウム摂取量を考えるうえで役に立ちます。
・食品成分表のカルシウム表示がシュウ酸などと結合したものも含まれているため、シュウ酸の表示には工夫が求められます。
E.食品にカルシウムとシュウ酸含量表示を。
・シュウ酸を考える前にも、日常カルシウムをどのくらい摂っているのかが分かり、食事などで摂るべき食材の見当がつきます。
・シュウ酸を含む食材を摂るときには、猶のことです。
 
C産地がすすめる安心メニュー
 「ホウレンソウのお浸しを肴に晩酌するのが毎日の楽しみです」。
「ホウレンソウのゴマよごし(ゴマ和え)が大好物なんですよ」。
 取材で訪ねた農家の方々から伺ったホウレンソウ料理は、浸し物、和え物のほか、ポパイ鍋や常夜鍋など、美味しいけれど手間をかけずに食卓に出せる、忙しい農家の主婦にうってつけの伝統的な簡単料理でした。
 

 
 全国屈指のホウレンソウ産地、埼玉県深谷市(「深谷ねぎ」の産地で有名)では、長年、市長が自ら先頭に立って、生産から消費までを見据えた農業振興に力を入れてきました。
 その一環として、料理コンテストを開催したりパンフレットを配布するなど、さまざまな取り組みにより、市の農産物を食材に使った料理を精力的に消費者に紹介しています。
 ここでは、その一部を掲載させていただきます。カルシウムの多い食材を加えたり、カルシウムの多いメニューを組み合わせれば、さらに安心です。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
D(参考)尿路結石症発症のメカニズムと予防法

★尿路結石症とは  (監修:埼玉医科大学総合医療センター泌尿器科 諸角誠人准教授)
 尿路結石症とは、尿路(腎・尿管・膀胱・尿道)にある結石により引き起こされる疾患であり、突然、腰、脇腹や下腹部に激痛を感じるのが特徴です。食生活の欧米化、すなわち肉食など動物性たんぱく質の摂取増加に伴い患者数は、年々増え続けています。2005年に行われた日本尿路結石症学会による本邦尿路結石患者調査によると、生涯に男性は7人にひとりが、女性では15人にひとりが発症することが判明しました。特に働き盛りの壮年期の男性に多く、再発率が50%と高いのが特徴です。
 通常、腎臓内でできた結石は無症状のうちに尿中に排泄されることが多いようです。しかし、大きく成長した結石が腎盂から尿管に落下すると、結石により尿の流れが滞ります。そして、腎盂の内圧が急激に上昇することで、激烈な痛みを感じます。痛みの発生部位として、尿管で発症するケースが多く、結石は尿管の蠕動運動により膀胱へ運ばれるため、疼痛は間欠的に起こり、3―4時間くらい続くことが多いようです。また、膀胱に落ちた結石が膀胱を出て尿道を通過する時、尿道壁を傷つけることで痛みを感じることもあります。
 尿路結石はその成分により分類されます。もっとも多い成分は シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムを主体とするカルシウム含有結石です。カルシウム含有結石は尿路結石全体の90%以上を占め、そのなかでも大部分がシュウ酸カルシウムとなっています。シュウ酸カルシウムはミネラル成分であるシュウ酸とカルシウム以外に、結石形成に不可欠な高分子物質(マトリックス成分)をわずかですが数%程度含んでいます。この他、痛風の原因である尿酸による尿酸結石、遺伝的疾患であるシスチン尿によるシスチン結石、細菌感染により尿素がアンモニアに分解されてできるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAPストルバイト)結石などが主な結石です。ここでは、最も多いシュウ酸カルシウム結石について見ていきたいと思います。
 基本的に尿中の危険因子であるシュウ酸、カルシウムおよび尿酸が多く存在すると結石は発生し易くなります。反対に抑制因子であるクエン酸やマグネシウムが存在すると結石はでき難く、これらの抑制因子が不足すると結石ができやすくなります。
 一般的にシュウ酸カルシウムの発症原因は食事など生活習慣によると考えられています。特殊な状況として、患者の代謝異常によるケースもあります。すなわち、尿中に危険因子(カルシウム、尿酸、シュウ酸)を過剰に排泄するものとして、高カルシウム尿症(尿中カルシウム排泄量が過剰になっている)、高尿酸尿症(シュウ酸とともに最終代謝産物である尿酸が過剰に存在し、尿酸結石あるいは尿酸が核となってシュウ酸カルシウム結石を促進する)、原発性高シュウ酸尿症(体内でシュウ酸を過剰産生する遺伝病)が主なものです。俗に言う「結石になりやすい体質」というのは上記のような状況を示すものと思われますが、家族内での発生のほとんどは似通った食生活が原因と考えられています。また、抑制因子であるクエン酸やマグネシウムの排泄減少でも結石は作られます。すなわち、尿細管性アシドーシスにみられる低クエン酸尿症、カルシウムと同じ2価の陽イオンでカルシウムと拮抗的なマグネシウム不足による低マグネシウム尿症は尿路結石症に繋がります。これ以外にも、水分摂取不足、あるいは発汗などの不感蒸泄増加により尿量低下および濃縮尿、食事性シュウ酸摂取増加に伴う高シュウ酸尿症、動物性たんぱく質の過剰摂取(尿中のCa、尿酸、シュウ酸を増やしクエン酸を減少させる)、脂肪(腸管内でカルシウムと結合しシュウ酸吸収を増加させる)、砂糖、食塩などの過剰摂取(尿中カルシウム排泄を増加させる)や、感染症などの多様な疾患、骨粗鬆症、寝たきりなども発症原因となります。
 
★腎臓の働き
 

 

 

 
★シュウ酸カルシウム結石症発症のメカニズム

 
★シュウ酸カルシウム結石症の予防法
 シュウ酸カルシウム結石症は、代表的な生活習慣病である高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化症とリスク・予防ファクターに共通点がみられ、不健康な生活習慣によって発症する生活習慣病ともいわれています。
 そのため、予防法の基本は一般的な生活習慣病を予防する健康的な生活習慣を身につけることで、毎日の朝食から始まるバランスのよい食事とともに規則正しい生活をベースに、肥満を防ぎ、適度の運動を心掛け、栄養や塩分摂取に配慮し、ストレス解消に役立つ趣味を持って、生き生きとリズミカルに暮らすことが大事とされています。
 次の表では、尿路結石の再発予防のためのリスク・予防ファクターを取り上げていますが、初発の予防のためにも役立つファクターです。

 

 
 
 
謝辞
 「U. ホウレンソウで認知症予防を」の項の執筆に当たり、
「1.野菜の健康効果」では、東京農業大学生物応用化学科 須惠雅之准教授、
「2.野菜の健康機能で生涯を健やかに」では、女子栄養大学 香川靖雄副学長、
「3.ホウレンソウをおいしく、安心して摂るために」では、農研機構上席研究員 堀江秀樹博士、
埼玉医科大学総合医療センター 諸角誠人准教授、貝塚市立病院 井口正典名誉院長(結石症予防法)
はじめ、各分野の研究者の皆様、生産者の皆様、坂戸市、深谷市など多くの関係者の皆様に快く貴重な資料のご提供やご指導をいただきました。厚くお礼申し上げます。
 
 
 
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(84)香川靖雄著『生活習慣病を防ぐ』岩波書店 2000年
(85)主婦の友社編『最新家庭医学大百科』主婦の友社 H12   
(86)塚澤和憲「低硝酸コマツナ品種の選定とホウレンソウの生育進度に伴うシュウ酸含有量の変動について」農耕と園芸2002年10月号
(87)竜口和恵「市販ホウレンソウ中のシュウ酸、硝酸含量の酵素法による測定」西南女学院紀要vol.9 2005年
(88)畑江敬子「栄養性、嗜好性を含む多次元解析による野菜の品質評価指標の構築」
  https://kaken.nii.ac.jp/d/p/09480001/1997/3/ja.en.html
(89)広瀬真仁「シュウ酸による尿細管細胞障害」『尿路結石症のすべて』医学書院 2008年 
(90)農研機構研究成果情報「ホウレンソウ葉表面に観察される白色顆粒」
  http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/vegetea/2007/vegetea07-15.html
(91)農林水産省「茶生産における施肥の現状と課題」平成21年5月
(92)厚生労働省「α-リポ酸に関するQ&A」
  http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/alipoic-qa.html
(93)主婦の友社『最新家庭医学大百科』平成12年
(94)森敏『食品の質に及ぼす有機物施用の効果』有機物研究の新しい展望、博友社 1986年
(95)日本科学会『驚くべき生命力の科学』大日本図書 1992年
(96)佐々木秀和「耐凍性」『農業技術体系土肥編 』第2巻 作物栄養X 作物栄養X 農文協 2000年
(97)目黒孝司「硝酸含量」『農業技術体系土肥編 』第2巻 作物栄養X 作物栄養X 農文協 1991年
(98)村井麻理、櫻井淳子「作物の低温順化は地下部温度の影響を受ける」農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
(99)惟宗具俊『本草色葉抄』内閣文庫 昭和43年
(100)真柳誠「本草色葉抄」 日本医史学雑誌36巻1号、1990年 
(101)木村康一・吉崎正雄編輯 『経史證類大觀本草・復刻版』 廣川書店 昭和45年  
(102)木村康一新註・校定 『新註・校定國譯本草綱目』第八冊 春陽堂書店 昭和50年
(103)著者不詳『料理物語』寛永十三年(1636年)本 手書き 慶應義塾大学所蔵
(104)著者不詳『料理物語』寛永二十年(1643年)本 手書き 慶應義塾大学所蔵
(105)著者不詳「料理物語」寛文四年本 『雑藝叢書.第一』 国立国会図書館デジタルコレクション
    http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1869566 178コマ
(106)松下幸子他「古典料理の研究(八)」
    http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AN00179534/KJ00004299331.pdf
(107)竹内若校訂『毛吹草』 岩波書店刊 1943年
(108)藤堂明保他『漢字源改訂第五版』学研教育出版 2011年
(109)松下幸子『江戸料理事典』 柏書房 2009年
(110)李時珍『本草綱目』第27巻 商務印書館 
(111)李時珍編 鈴木真海訳『国訳本草綱目』 第2冊 春陽堂 1977年
(112)「FLORA OF THE U.S.S.R.」(ソビエト連邦植物誌)VolumeY 1936年 (英語への翻訳1985年)
(113)西村秀敏『世界の薬用植物』 昭報社 平成8年
(114)医歯薬出版『最新医学大事典 第3版』 医歯薬出版 2005年
(115)『ステッドマン医学大辞典 第5版』メジカルビュー社 2002年
(116)大鷲ら「ホウレンソウのルテイン含有量の品種間差と寒締め処理の影響」東北農業研究67:121-122 2014年
    www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/.../H26yasaikaki001.pdf